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食品ゴミが「お菓子の家」に転生 明治や大阪万博が注目する新技術

» 2024年03月25日 08時30分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

 グリム童話『ヘンゼルとグレーテル』に登場する「お菓子の家」が現実のものになったら──。これまでは妄想の域を出なかったが、幼少期の夢が叶(かな)う日がすぐそこまで来ているかもしれない。

 「お菓子の家を作りたい」と話すのは、規格外の野菜や食品加工時に出る端材などのゴミを新素材に変える技術を開発した、fabula(東京都大田区)の代表取締役 町田紘太CEOだ。町田氏が東京大学在学中に研究テーマとして扱っていた「コンクリートに代わる、食べられる建材」から現在の事業が生まれた。

fabulaは、町田氏が大学在学中に研究テーマとして扱っていた「コンクリートに代わる、食べられる建材」を基にした事業を展開している(画像:以下、fabula提供)

 近年、環境への関心の高まりに伴い、ゴミに新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品に生まれ変わらせるアップサイクルなども広がってきた。しかし、fabulaの技術から生まれる新素材はこれまでのアップサイクル商品とは一味も二味も違う。

 その高い価値が認められ、大手食品メーカー明治とのコラボも進行中だ。加えて、2025年開催の大阪万博の建造物の中でfabulaの新素材を使用することも決定している。

 創業3年目のベンチャー企業に、なぜこれほど大きな期待が寄せられているのか。町田氏への取材を通して、fabulaの強みを解明していく。

白菜が“コンクリートの4倍”の曲げ強度に──どうやって?

 まず、どのような工程を経て食料廃棄物を新素材に生まれ変わらせているのかを見ていこう。プロセスとしては、野菜やコーヒー豆のかすなどを乾燥、粉砕し、その粉末を金型に入れて熱圧縮するという流れだ。ワッフルやタコせんべいを作るようなイメージが近いという。

 単一食材でなくても加工は可能で、過去にはコンビニ弁当なども試した。食品以外が混在していても成形できる。これまで100種類ほどの廃棄物で実験を繰り返してきており、ノウハウも十分にたまってきたという。野菜の色をきれいに出したい、香りを強く残したいなど、最終的な製品で出したい特徴に沿って生産工程を組み、処理を施す。

みかんの皮(左)、乾燥&粉砕した粉末(中央)、新素材(右)

 ここまでだと、よくあるアップサイクル商品の工程と思えるかもしれないが、fabulaの新素材の強みは、その「強度」にある。もともと町田氏が在学中にコンクリートを代替する素材を研究していたこともあり、その観点が盛り込まれている。

 fabulaが開発した技術で加工した白菜は、コンクリートの4倍の曲げ強度(素材を曲げようと力を加えたときに、折れずに耐えられる限界の力)を持つという。白菜以外の素材は混ぜていない。強度について、町田氏はこう話す。

 「具体的なメカニズムについては明らかにできていないのですが、おそらく糖分と繊維のバランスが重要なのだと思います。熱圧縮時でやわらかくなった糖分が繊維のすき間を埋めて接着剤の役割を果たしているのではないかと考えています。白菜から出来た新素材は厚さ5ミリで30キログラムの重さに耐えられます」(町田氏)

コンクリートを含む野菜や果物の曲げ強度

 白菜以外にも、オレンジや玉ねぎ、海藻など、コンクリートより高い強度を持つ素材は多く存在する。これらがコンクリートの代替となるのだとしたら、お菓子の家の実現も夢物語ではない。技術的にはクリアしているが、現時点での廃棄食材がコンクリートの代替になる可能性はどれくらいあるのだろうか?

 「コストの観点がクリアできれば十分に代替可能だと思います。現在は一つずつ製造しているので、安定的に品質を保って量産できる体制を構築していく必要があります」(町田氏)

 コンクリートの代替として商用化が進めば、コンクリートが引き起こす環境問題の解決にも寄与する。町田氏によると、コンクリートの原料となるセメントを作る工程で発生する二酸化炭素は世界の年間排出量の約8%を占めるという。また、セメントに必要な砂も枯渇しつつある。将来的にコンクリートを作れなくなる可能性もあるのだ。

 fabulaの新素材がその未来を食い止める力を持つ。もちろん、製造時の二酸化炭素排出量もコンクリートと比較して大幅に少ない。有機物の炭素固定分を踏まえると、カーボンネガティブも実現できている。

 「コンクリートは安くて長持ちします。素材で勝つのはなかなか難しいですが、徐々に世の中の意識が変化してきて、われわれの活動にとっては追い風が吹き始めたように感じます」(町田氏)

fabulaの新素材が環境保全に貢献する未来も近い

 コンクリート以外にも木材やプラスチックなどの代替も一部可能だという。町田氏は「何かの代替品を目指しているわけではなく、一つの新しい素材として選択肢に並んでほしい」とした上で、以下のように持論を展開した。

 「実は、コンクリートはあまり曲げ強度が高いものではありません。木材やプラスチックの方が強いです。しかし、日常生活で見る製品において木材やプラスチックがオーバースペックだと感じることは多々あります。筆箱やランプシェードなど、強度がそこまで重視されていない製品については、白菜という選択肢があっても良いのではないでしょうか」(町田氏)

 fabulaの新素材には多くの企業や団体が注目している。大手食品メーカーの明治が立ち上げた、カカオハスク(カカオ豆の種皮)のアップサイクルを通じた日用品や雑貨などを展開する新ブランド「CACAO STYLE」の商品をfabulaが製造している。ラインアップはコースター、チャーム、お香立ての3種類を用意した。

CACAO STYLEとのコラボレーションから生まれた製品(画像:fabula公式Webサイトより)

 現在の企業コラボや自社開発では身近な製品へのアップサイクルが多いが、将来的には商業的な建材としての活用を目指す。不燃焼性や耐水性を持たせて、日本の建材の基準値を超える素材の開発に取り組んでいく。

 「素材となった食材の色や香りを楽しめるという特徴を持つ建材として、これまでの建材になかった価値を出していきたい」(町田氏)

白菜から作ったスツール

 一度、廃棄植物が建材として活用された実績を持てば、さまざまな業界への横展開も期待できるだろう。食品業界においては、菓子メーカーがバレンタインやホワイトデーなどの催事でお菓子の家を作るかもしれないし、観光業界では廃棄食材で作った宿泊施設に泊まるサステナブルツアーが誕生するかもしれない。

 まだ新素材は産声を上げたばかりだ。ここから、世界的な環境保全の追い風に乗り、すくすくと成長していくと期待したい。

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