次に、本人の持つキャリアや働き方に関する希望を丁寧に聞き、組織の期待とすり合わせましょう。
前述の調査では、ポストオフ前後で仕事上重要と考えるものがどう変わったかを調べています。
部長層と課長層で見てみると、ポストオフ前はいずれも「十分な資金を得る、良い生活をする」が仕事上の重要事項だったのに対し、ポストオフ後は「人の役に立ち、感謝される」(部長35.9%、課長26.2%)、「自分が楽しめる、面白いと思える」(部長30.7%、課長27.0%)など、他者への貢献や自分自身の充実感を重視するようになる傾向が見られます。
もちろん、このデータは全体的な傾向を示すものであり、仕事をする上で何を重視するかは一人一人全く異なります。1on1や面談の機会を使って、本人の希望に丁寧に耳を傾けることが必要です。
役職定年後の社員の役割としてよく挙げられるのは、後進の指導育成などです。しかし当然のことながら、ポストオフ経験者なら誰でも後輩の指導をしたがっているというわけではありません。
年齢にかかわらず新しいことにチャレンジしたい人もいれば、これまでと同じような仕事にコツコツ取り組んで成果を上げたい人もいるでしょう。また、人によっては役職定年で環境が変わったことも影響し、今の自分が何を重視したいかがはっきり自覚できていない場合もあります。
今後のキャリアにおいて、いつ頃までどんなふうに働いていきたいのか、何を重視していきたいのかを、本人と対話しながら明らかにしていきましょう。
3つ目のポイントは、役職定年した部下について個人の活動だけで完結させず、他のメンバーや社内外の関係者と関わる場面を積極的に作っておくことです。
前述の調査結果からも「1日に会話する人の数」が減る(49.0%)など、ポストオフ後は本人が能動的に周囲と関わりながら仕事を進める機会が減少する可能性が示唆されます。役職についていた彼・彼女らは社内でもベテランですから、やろうと思えば一人で完結できる仕事も多いかもしれません。
しかし、あえて若手や中堅の社員と関わる場面を意図的に作っておくことが、本人にも周囲にも良い影響を及ぼす可能性があります。
前述の調査の中で、ポストオフを経験した本人の仕事の適応感に影響する要因を探ったところ「同僚と共感する、助け合いながら役割範囲や人との関わりを広げる」ことが、本人の仕事への適応感に影響しているという結果が得られました。
ポイント1にあるように本人の良さを発見し認め、その強みを生かしながら同僚と協働してもらうことが重要です。それによって同僚との助け合いが起こったり、本人の仕事の捉え方が変わったりして、居場所があると思える、活力が湧くといったポジティブな影響につながる可能性があります。
ここまで役職定年した部下への関わり方のポイントを見てきましたが、あらためて全体を通して見てみると、これらは決して役職定年した部下だけに有効なアプローチではありません。むしろどの年代・どの立場のメンバーに対しても有効なマネジメントだと言えます。
役職定年という立場を特別視して過度に遠慮したり、関わり方が分からないからと放置したりするのではなく、本人の特性をよく理解し、周囲とのコミュニケーションの機会を作りながら、成果創出に向けて継続的に支援していくことが重要です。
また、企業や人事部門の課題として、年齢や立場によらずそれぞれの持ち味が生かされ、仕事が公正に評価される組織風土を作っていくことが重要になります。
近年、年齢に基づく偏見や固定観念、決め付けを意味する「エイジズム」の問題が注目を集めています。近い将来、「役職定年だから・高齢部下だからこう接するべきだ」というこの記事の議論自体が、ナンセンスだと感じられるようになるでしょう。すでにそう感じる人はたくさんいるはずです。
相手の状況を知り、共感をもって相手を理解しようと努め、その良さを見つけて認めることは、相手が誰であってもマネジメントの基本です。また個々の良さを生かして良いチームを作り、集団の成果を高めることは、マネジメントの仕事そのものです。
本稿の関わり方のポイント3点を、まずは年上の部下に、そしてそれ以外の部下にもぜひ試してみてください。
リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部主任研究員。広告業界などを経て2008年に入社し、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員〜管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング