わが国には「公益通報」と「公益通報者保護制度」というものがある。
事業者における法令違反行為を知った従業員が、組織内の通報窓口や行政機関、報道機関などに通報することが公益通報であり、公益通報した従業員に対して解雇や降格、減給、損害賠償請求等の不利益な取扱いを禁止するのが公益通報者保護制度だ。
「飲食店が不衛生な厨房を放置したまま運営している」ことを通報するのは明らかに公益通報であるから、「SNSで告発した元従業員が元勤務先から訴えられる」事態はいかにも理不尽に感じられるだろう。「国は勇気をもって声を上げた人を守ってくれないのか……」と幻滅した人さえいるかもしれない。
今般のケースでは元従業員に悪意があったことが判明したため(不正目的)、そもそも公益通報には該当しないが、仮にこの元従業員が純粋に善意で店の不衛生な状況をSNSで告発していたとしても、残念ながら公益通報にはならなかっただろう。
なぜなら、一般的な感覚における『内部告発』と、法的に告発者が保護される『公益通報』は別モノであり、今般のケースは公益通報の正当な手順を踏んでいなかったため、内部告発者である元従業員は保護対象にならなかったためである。
公益通報と認められるためには細かく要件が定められている。
具体的には、以下のようなものだ(参照:消費者庁「公益通報ハンドブック」)。
今般のケースでは「通報先として定められた行政機関窓口(本件では保健所)に通報せず、先にSNSで不特定多数にさらしてしまった」ために、正当な公益通報に該当せず、保護要件を満たさなかったものと考えられる。
また、元従業員は告発に関連したSNS、YouTube投稿によって視聴者から課金収益を得ていたとのことで「仮に店舗側に落ち度があったとしても、風評流布によって私刑をあおって収益を得ていた行為は問題」と判断された可能性が高い。
そもそも私刑は緊急行為(正当防衛や緊急避難)以外では原則として容認されていないこともあり、それで収益を上げようとすれば非難されても仕方ないだろう。
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