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あまりに「日本企業あるある」だ──ダイハツ不正の背景にある病理を読み解く働き方の「今」を知る(1/3 ページ)

» 2023年12月29日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 ダイハツ工業の創業は明治40年(1907年)。日本の量産車を手掛けるメーカーとして最も古い歴史を持ち、軽自動車販売シェアでは17年連続1位を誇る。世界で178万台もの自動車を生産し(2022年度)、インドネシアでの生産台数、マレーシアでの販売台数でトップシェアを保持している。

 そのダイハツにおいて23年4月、自動車の安全性確認試験で不正行為があったことが内部告発により発覚。その後第三者委員会を立ち上げて問題を調査していたが、12月20日に調査報告書の内容が同社から発表された。

ダイハツ工業(画像提供:ゲッティイメージズ)

 報告書では、最も古い事例で1989年から不正が行われていたと認定。その後の調査によって、新たに25の試験項目で174件の不正が判明したという。結果として、同社が国内で生産・開発しているほぼ全ての車種における安全性試験で不正行為が確認され、ダイハツは国内外で生産・販売する全ての車種の出荷停止を発表するという前代未聞の事態へと発展している。

 生産終了車や海外向けの車まで含めると、総計64車種にも上る今回の不正はなぜ起きたのだろうか。そのヒントは、今般公表された「第三者委員会による調査報告書」に隠されている。報告書内の後半部分で「不正行為が発生した直接的な原因およびその背景」として、同社の組織風土や職場環境における問題点が生々しく記されているのだが、その内容があまりに「日本企業あるある」だとネットを中心に話題になっている。

あまりに「日本企業あるある」でつらい……不正が起きた背景

 報告書では「本件問題の真因」として大きく2点、「不正対応の措置を講ずることなく短期開発を推進した経営の問題」と「ダイハツの開発部門の組織風土の問題」を挙げている。すなわち、会社を挙げて「短期開発」を至上命令として取り組んできた結果、強烈なプレッシャーの中で追い込まれた従業員が不正行為に及んでしまったものであり、経営陣は不正を想定しておらず、予防策もとっていなかった。不正行為に関与した従業員は、経営の犠牲になったものであり、強く非難することはできない、という論調だ。

 中でもネット上で特に共感の声が多かったのが、同社社員に対するヒアリングやアンケート調査から導き出された、ダイハツの組織風土にまつわる部分だ。報告書では多くのページを割いて、実際の社員に対するアンケート調査結果や委員会の分析から、ダイハツの職場風土の問題点を次のように列挙している。

第三者委員会報告書で指摘されていたダイハツの職場風土の問題点

  • 過度にタイトで硬直的なギリギリのスケジュールを強要される
  • 失敗やミスを叱責され、問題を起こした部署や担当者は吊し上げられる風土
  • 「失敗は絶対に許されない」という極度のプレッシャー
  • 物理的に不可能、困難でも「無理」と言い出せない雰囲気
  • 「無理してでもやり切った」ことが実績となり、次回以降の標準になる
  • 人手不足に対して充分なリソースを確保せず、現場の自助努力に頼るのみ
  • 自分の抱える問題は、他者に頼ることなく自分の責任として解決しろという風潮
  • 自分が担当する工程さえよければよく、他人がどうあっても構わないという風土
  • 法規に関する研修もなく、法規理解が不十分なまま仕事が行われている
  • 「人員削減=コスト削減=会社の強み」となっており、人員増は絶望的
  • 人が定着しないため、これからを担うべき中間層が薄い
  • 人手不足と管理職の兼務が重なり、管理職の管掌範囲が広くなりすぎた結果、現場の実情を理解する余裕がなくなり、「上司に相談してもムダ」との諦念が広がる
  • 「虚偽申告や不正をおこなってはならない」という当たり前の感覚を失うほど、コンプライアンス意識が希薄化
  • 内部通報すると「調和を乱した者」として通報者を捜して非難される懸念
  • 内部通報制度は機能せず、自社の自浄作用に社員自身が期待も信頼もしていない

 労働環境が劣悪な、いわゆる「ブラック企業」出身の筆者としては、挙げられた要素一つ一つにさまざまな過去の思い出がフラッシュバックしてよみがえり、報告書を読み進めるにも大変胸が痛い思いをした次第だ。

 おそらく読者の皆さんも「これってウチの会社のことでは……」と感じられた部分があるのではないだろうか。

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