なぜ、PBなのに安くないの? ウエルシアとマツキヨココカラが「高級志向」を始めた背景(3/3 ページ)

» 2024年04月20日 05時00分 公開
[山口伸ITmedia]
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 マツキヨでは近年、化粧品など美容関連のPB商品を強化する動きが見られる。同社によると、23年4月に発売したパーソナライズヘアケアブランド「MQURE(エムキュア)」のシャンプー・トリートメント「MQURE for U」がヒットになったことが影響しているようだ。

 同商品は、髪質やライフスタイルなど、12項目の診断に答えることで自分に合わせたシャンプーやトリートメントが届く商品であり、診断はネットで可能。髪の太さや質、悩みや理想の髪型について回答し、好きな香りも選択でき、自分に合ったシャンプーを手にできるというわけだ。価格はシャンプーとトリートメントのセットで6600円と、従来のPBやNB(ナショナルブランド)と比較しても高価格帯に位置し、ハイブランドに位置付けられるだろう。

高級シャンプー&トリートメントながら売れているMQURE for U(同前)

 3月からは、化粧品メーカーの伊勢半(東京都千代田)と共同開発した新コスメブランド「nake(ネイク)」を展開。コンシーラーやフェイスパウダーなど10商品を扱う。価格帯はいずれも1500円前後と、いわゆるデパートコスメより安いものの、特別安いわけではない。

 「スキンケア以上、メイク未満」をキャッチフレーズとしており、理想のすっぴん風メイクを目指すためのブランドという立ち位置だ。同ブランドもデータを基に開発しており「ナチュラルメイクをする人の大半が理想を叶えられていない」という調査結果から着想したという。

業績から見る、PB戦略の意義

 近年の動きを見ると、ウエルシアは食品や雑貨で健康・環境対応を付加価値としたPB商品を打ち出し、マツキヨココカラ&カンパニーはPBの化粧品ブランドを強化していることが分かる。

 ウエルシアがからだWelciaとくらしWelciaで食品・家庭用雑貨のPBを強化する背景には、商品別比率が関係していると考えられる。同社の24年2月期における品目別売上高は、上位から順に食品(22.6%)・医薬品(調剤除く、19.0%)・化粧品(15.7%)・家庭用雑貨(13.7%)である。一方、各商品の売上高総利益率は医薬品が40.7%、化粧品が33.1%であるのに対し、食品・家庭用雑貨はそれぞれ19.0%・28.6%と全体平均の30.3%を下回る。

 ウエルシアはこれまで、安い食品で集客し、医薬品で利益を出すビジネスモデルを取ってきた。しかし近年の業績では、売上高が伸びても営業利益が伸び悩んでいる。こうした状況から利益率を改善すべく、食品や雑貨の分野でPBを強化していると考えられる。健康や環境保護を付加価値とした背景には、安売りを防ぐ狙いがあるのかもしれない。

 化粧品関連のPB強化が目立つマツキヨココカラ&カンパニーも同様に、品目別売上高が関係しているといえる。同社の場合、ウエルシアと違って食品の構成比は9%ほどしかなく、突出しているのは34%ほどの化粧品だ。つまり、得意分野とする化粧品でPBを強化した形と読める。経営統合による効率化や、市街地における人流の回復で直近の業績は好調だが、PBの拡充でさらに利益率を高めたい狙いがあるのだろう。統合時にスローガンとして「美と健康の分野でアジアNo.1を目指す」と掲げていたこともあり、今後も注力する姿勢は変わらないはずだ。

 ウエルシア・マツキヨココカラの両者は利益率の改善を狙い、PB比率の向上に取り組んできたが、従来の安売りだけでは限界があるのだろう。PBの付加価値を強化する背景には安さ以外の魅力で集客したい狙いがあるとみられる。NBの廉価版と位置付けられてきたPB商品だが、今後は他業種でも、付加価値を付けた商品がさらに増えていくのかもしれない。

マツキヨの個性的なトイレットペーパー、ドイツの世界的デザイン賞「iFデザインアワード」を受賞した(出所:受賞当時のプレスリリース、以下同)
マツキヨの個性的なトイレットペーパー、ドイツの世界的デザイン賞「iFデザインアワード」を受賞した
マツキヨの個性的なトイレットペーパー、ドイツの世界的デザイン賞「iFデザインアワード」を受賞した

著者プロフィール

山口伸

経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 X:@shin_yamaguchi_


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