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「PBR優良企業」の4つの共通点とは 財務・非財務の経営管理手法ROIC経営が企業を変える(2/3 ページ)

» 2024年04月26日 08時00分 公開

ROICと連動した現場KPIをいかに浸透させるか

 外圧の要請を受けて、事業別ROICを算出して開示している企業が増える一方、ROICはコーポレート部門が把握しているのみで、なかなか事業部門に浸透していないという声もよく聞く。

 面白い調査結果を共有したい。以下図5では、A企業=優良企業(PBRが高く、事業撤退の経験がある企業)の65%が、事業別にROIC改善に有効な個別KPIを特定するとともにその責任部署を明確にし、そして業績連動させているのである。

 D企業(PBRが低く、事業撤退の経験もない企業)の7%と比べて、58ポイントという大きな差が存在している。そして興味深いのはC企業である。C企業のPBRは低いが、事業撤退の経験がある企業である。事業撤退の経験がある企業は真剣に経営管理に取り組んでいるのか、個別KPIの業績連動を42%が実践している。

 優良企業は「自分ごと化」する有効な手段として業績連動を適用することで、ROIC経営管理を事業部門に浸透させているのである。

図5:ROIC個別KPI(ROICツリー)管理の導入状況

優良企業は「人財投資」「IT投資」などにROI評価を取り入れている

 一般社団法人「生命保険協会」が行った中長期的な投資・財務戦略において重要視するものは何かという調査結果(図6)を見ると、企業が「設備投資」を重視しているのに対し、投資家は「人財投資」「IT投資」「研究開発費」を重視していることが分かる。

 最近広く知られるようになった企業と投資家のギャップである。しかし優良企業は、投資家の視点を経営管理に取り入れている。無形投資資産のROI評価や事業貢献度評価に取り組んでいる。

図6:企業と投資家のギャップ

 先日まで支援していたある専門商社で、中期経営計画を策定する中で、既存事業の成長・縮小の整理とともに新規事業の事業計画も検討していた。その際、事業ポートフォリオは、人財ポートフォリオや知財ポートフォリオに支えられていることを強く再認識した。

 既存事業の成長戦略を実現するには、縮小事業から成長事業へ人員をシフトしなければならないが、求められる人材要件は大きく異なる。事業成長の可能性に対して、人財充足率が低く、警鐘を鳴らすこととなった。また、新規事業に参入するためには、ある加工技術の取得が必須であり、これらの技術を保有しているパートナー企業との関係性を再構築することが必要であると判明したが、常日頃から技術ポートフォリオの評価を元に、パートナー企業とのアライアンス戦略を立案し実行していなかったため、出遅れる格好となってしまった。

 これらの反省点を生かし、この専門商社の中期経営計画には、事業ポートフォリオの組み替えを支える人財ポートフォリオ、技術ポートフォリオを評価する仕組みを導入。2024年4月から運用を開始している。なお、優良企業では、以下の図7にあるとおり、無形資産投資に対するROI評価(事業貢献度)に取り組んでいる。ちなみに、ROIC経営調査のインタビューでは「事業連動」がキーワードとして挙げられていた。

図7:無形資産投資のROI評価の状況

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