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「PBR優良企業」の4つの共通点とは 財務・非財務の経営管理手法ROIC経営が企業を変える(1/3 ページ)

» 2024年04月26日 08時00分 公開

連載:ROIC経営が企業を変える

企業価値(PBR)向上が日本企業にとって喫緊の経営アジェンダとなる中、企業の資本効率や事業の収益性を表す「ROIC」を経営指標に活用する「ROIC経営」に注目が集まっています。ROIC経営を成功させる要因や課題は何なのでしょうか。アビームコンサルティングの担当チームが解説します。

 近年、東証による「資本コストや株価を意識した経営」などの要請を受け、PBR(株価純資産倍率)やROIC(投下資本利益率)を意識した経営を目指す企業が増えている。約34年ぶりの高値を付けた日本株の好調は、こうした企業改革の推進が原動力となっている。

 連載の第1回「古くて新しい『ROIC経営』 再注目の背景に、日本企業への“外圧”」では「外圧(経産省、東証、投資家など)によりROIC経営が再注目されている」ことに触れながら、本質的には「事業売却の有無と企業価値PBRに強い相関がある」ことを確認し、事業売却の意思決定ができる、すなわち本気の経営管理、事業ポートフォリオ管理を実行できている企業は、ROIC経営を実直に推進していることを紹介した。

 第2回は、アビームコンサルティング執行役員 プリンシパル 企業価値向上 戦略ユニットの小宮伸一氏が解説。優良企業(PBRが高く、事業撤退の経験のある企業)の特徴と、PBRを高める道筋(成功ポイント)を探っていきたい。

優良企業の特徴とPBRを高める道筋を探る(ゲッティイメージズ)

PBR優良企業の4つの特徴

 アビームコンサルティングが実施した「進化するROIC経営の実態調査」(以下、ROIC経営調査)の結果から、優良企業の特徴として4点を導いている。

 稼ぐ力の創出に関する取り組みとして2点、成長期待の醸成に関する取り組みとして1点、これらの活動のベースとなる取り組み1点を加えた4点である。

 稼ぐ力を創出するにあたり、(1)ROIC×αを用いて事業ポートフォリオを妥協なく組み替えている。また、(2)ROICと連動した現場KPIを厳選し、ROICと連動したPDCAが回る仕組み(業績連動)を構築している。成長期待を醸成するために、(3)知的資産の投資対効果を追求し続けている。以上3点を実現するため、(4)連結経営管理のデータインフラを妥協なく整えている――の4点だ。詳しく見ていきたい。

図1:調査結果から明らかになった優良企業の特徴

優良企業はROIC「×α」で事業ポートフォリオを管理

 第1回でも紹介したとおり、外圧(経産省、東証、株主などの要請)もあり、ROICを用いた事業ポートフォリオの管理に取り組む企業が増えている一方、ROICは単年度の効率性指標であるため、緊縮・短期志向を懸念する声も聞かれる。そのような中、優良企業は、ROICに加え、「売上高成長率」「市場成長率」といった「α」となる規模成長指標を組み合せることで、中長期的な視点を持って事業ポートフォリオの管理を進めている。

図2:事業ポートフォリオの評価軸

 また、規模成長指標といった財務指標に加え、非財務指標としては、事業が保有している人財・知財・デジタル(IT)資産の価値を組み合せて、各事業を評価していることがROIC経営調査から判明している。これは、自社のケイパビリティーとして当該事業をどの程度成長させる力を保有しているか、という観点を加えており、中長期的な稼ぐ力であるとともに、成長期待の醸成にもつながる経営管理であると言える。

 「伊藤レポート3.0」が発表されて1年半が経過するが、この中で、企業価値を向上させるためには、企業と社会のサステナビリティーの同期化が必要であるとされていた。日本企業が企業価値(PBR)を向上させるために事業ポートフォリオを組み替えるとは、具体的には下図3に示す4つの取り組みが必要である。

 まず(1)企業と社会のサステナビリティーが整合するコア事業領域を特定する。続いて、各事業のポジショニングを整理した結果、コア事業領域から外れる事業については、(2)社会・従業員に貢献するポジティブな事業売却を検討する。コア事業領域に該当する事業については、(3)維持・成長・縮小に向けたROIC経営を推進して(事業部門へ浸透させて)いく。そして、コア事業領域での新たな成長に向けた(4)新規事業開発も求められる。

図3:企業価値上場のために日本企業が取り組むべき事業ポートフォリオ管理

 ある化学品メーカーでは、企業と社会のサステナビリティーの同期化に向け、事業活動を通じて貢献する社会課題をマテリアリティーとして特定し、そのKPIを事業ポートフォリオの評価軸として採用している。

 図4にある通り、縦軸にROIC、横軸にサステナビリティー貢献度を設置し、事業をより分割した約80のSBU(Strategic Business Unit、製品カテゴリ)のポジションを整理。実際には、この評価を通じていくつかのSBUの撤退や事業売却の意思決定を行っている。なお、サステナビリティー貢献度は、より具体的なCO2排出量(削減量)、廃棄物発生量(削減量)といったKPIの総合評価指数としてモデル化されている。

図4:ROIC×非財務指標を用いた事業ポートフォリオ管理

 ROICは万能な指標ではなく、優良企業ではROICの欠点を補う指標を組み合せることで、中長期的な稼ぐ力の創出に有効な事業ポートフォリオの組み替えを実践している。

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