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「転勤はイヤ、配属ガチャもイヤ」――若手の待遇改善のウラで失われるもの河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2024年04月26日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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キャリアを切り開く、デザインアプローチとドリフトアプローチ

 最後にキャリア発達の側面から、転勤の良い面をお話しします。

 キャリアを切り開く方法には、大別して2つのアプローチがあります。

 一つは、デザインアプローチです。これは本当に自分のやりたいことを吟味し、ゴールに至る道筋をデザインすることを重視します。もう一つはドリフトアプローチといい、自分の関心ある方向に向かって意志を持って歩き出すことを重視し、歩きながら道を拓いていきます。

 ドリフトアプローチは、キャリアの大枠だけ組み立てたら、あとは身を任せてその途中で起こる変化を楽しむことで、キャリアが形成されるという考え方です。

 意図しない人事異動は、ドリフト=身を任せて漂流するチャンスです。

 ドリフトアプローチで最も大切なのは、自分に与えられた環境の中で自分の力を最大限に発揮する方法を見つけること。世の中では、やたらと自分のキャリア像を描き、自分の働き方をデザインすることがもてはやされているけれども、会社という組織の一員として働きながらも、そこに自分の意志でプラスアルファを加えていく。その積み重ねが思わぬ出会いにつながり、キャリアを開いていくのです。

 具体的には「自分にできることが、他にはないか?」「自分の知らないことは、他にはないか?」と常に自問し、与えられた環境の中で、やるべき仕事にどんどんプラスアルファを加えていく。

 与えられた仕事を100%こなすだけでなく、101%、102%と、無心に目の前のことに自分の意志によってプラスアルファを加えていくことによって、経験を生かした、本当の意味でのキャリアアップが可能になります。

自分の考え方や感じ方は、変わるもの

 そもそも世の中には、どんなに「目標を持て」とか、「自分の進む方向をしっかり描け」と言われたところで、どうやったら目標を持てるのか、どうやったら自分の進む方向を描けるのかさえも分からない人は少なくありません。

 そんな時、目の前のあることにほんのちょっとだけ自分の意志によってプラスアルファを加える働き方をすれば、それは企業にとっても、自分のキャリアにとってもプラスになります。

画像提供:ゲッティイメージズ

 自分の考えたルートと違う道を歩まざるを得なくなったときの経験は、必ずや人生で役立ちます。こういう話をすると「昭和的?」言われてしまうかもしれません。ただ、デザインアプローチで一番計算されていないのが、自分の考え方や感じ方は、年齢と共に変わるし、人との出会いで変わるという点です。

 もちろんこれまで会社は「行け!」というだけの無責任な姿勢でしたから、会社員の力量に甘えていた部分があったのは間違いありません。

 しかし、今は多くの企業が「転勤制度」の見直しをしています。そうした制度をうまく利用して、時には「きっと自分のためになる」と、自分から転勤に手をあげる若い社員が出てきてほしいと思います。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。

2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。


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