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「実質義務なのに?」 勉強会は“自己研鑽だから”残業代ナシ──NGなのか?Q&A 社労士に聞く、現場のギモン

» 2024年05月07日 17時50分 公開
[近藤留美ITmedia]

連載:Q&A 社労士に聞く、現場のギモン

働き方に対する現場の疑問を、社労士がQ&A形式で回答します。

Q: 当社では業務遂行に当たって必要な専門知識を身に付けるため、若手向けに有志の勉強会を開催しています。入社3年目まではなるべく毎回参加するように声掛けをしていますが、資格試験にも有利になる内容を取り扱っていますし、この時間は自己研鑽(さん)と捉えているため特に残業代は出していません。

 新入社員から「3年目までは参加するように義務付けられているようなものなのに、残業代が出ないのはおかしい」と人事部に問い合わせがありました。このような場合でも、残業代は出さなくてはいけないのでしょうか。

自己研鑽の勉強会でも、残業代は出すべき?

A: 新入社員が主張するように、当該勉強会が参加を義務付けられているものであり、「使用者の指揮命令下に置かれている」と考えられるのであれば当然、この勉強会に参加している時間も労働時間にあたり、賃金は発生します。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 また、その勉強会が業務時間外に開催されているのであれば、法定通りの算出方法による残業手当の支払いも必要になるでしょう。

 しかしながら、会社が主張するように、「なるべく参加するように声掛けをしている」程度のものであり、あくまでも勉強会は自由参加であり、参加の強制はしていないということであれば、労働時間には該当せず、賃金の支払義務もないものと考えられます。

 つまり、会社に賃金や残業手当の支払い義務があるかどうかの判断は、この勉強会への参加が強制であるのか、自由参加であるのかどうかの判断によるものと言えます。

 なお、ここで言う「勉強会へは自由参加、参加を強制していない」と認められる場合とは、実態を伴うものでなければなりません。

 例えば、対外的には「なるべく毎回参加するよう」声掛けをする程度にとどめてはいても、実際に参加しなければ業務ができなくなるようであれば、事実上の参加を強制していると言えます。

 また、勉強会の不参加により、人事評価が下がったり、減給の対象となったりするなどの不利益な取り扱いが行われる場合も、事実上、参加を強制しているものと考えられます。

 従って、本件で問題となっている勉強会について、事実上の観点からも参加を強制していないと考えれられるものであれば、残業代を支払う必要はないでしょう。

著者:近藤留美 近藤事務所 特定社会保険労務士

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大学卒業後、小売業の会社で販売、接客業に携わる。転職後、結婚を機に退職し、長い間「働く」ことから離れていたが、下の子供の幼稚園入園を機に社会保険労務士の資格を取得し社会復帰を目指す。

平成23年から4年間、千葉と神奈川で労働局雇用均等室(現在の雇用環境均等部)の指導員として勤務し、主にセクハラ、マタハラなどの相談対応業務に従事する。平成27年、社会保険労務士事務所を開業。

現在は、顧問先の労務管理について助言や指導、就業規則等規程の整備、各種関係手続を行っている。

顧問先には、女性の社長や人事労務担当者が多いのも特徴で、育児や家庭、プライベートとの両立を図りながらキャリアアップを目指す同志のような気持ちで、ご相談に乗るよう心がけている。


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