JR東日本「みどりの窓口削減凍結」に、改めて思うこと杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2024年05月11日 08時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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窓口廃止は機会損失と公共交通の責任放棄である

 JR東日本が2024年4月30日に発表した「2024年3月期決算および経営戦略 説明資料」によると、自社新幹線のチケットレス利用率は2024年3月期で56.4%、きっぷのえきねっと取り扱い率も55.2%と過半数となった。2028年3月期までにチケットレス利用率を75%、きっぷのえきねっと取り扱い率を65%にする目標だ。オンライン予約への移行は着々と進み、もう非効率な窓口はいらないと考えていそうだ。しかし、他の交通手段に逸走した窓口利用者がいたため、相対的にチケットレスやオンライン予約の比率が上がった結果かもしれない。

 私は窓口を減らすことには反対だ。もし減らしていくのであれば、指定席券売機では窓口と同じサービスレベルを維持すべきだと思う。まさか「窓口に並ぶ人々は機械に慣れない年寄りばかりだ。そのうちにいなくなる」と思っていないだろうか。クレジットカードを使えない人、使わない人、機械の操作が苦手な人はたくさんいる。ペットを同伴して電車に乗るときに必要な「手回り品きっぷ」も指定席券売機では買えない。

 JRは「指定席券売機を用意すれば、お客さまがすべて窓口から移行できる」と考えているだろうけれども、実態は「窓口しか使えないお客さまを切り捨てる」ことになる。これは商売のやり方だけではなく、公共交通のあり方としても問題だ。

 2023年8月に開業した宇都宮ライトレールは、最新設備を満載して開業したにもかかわらず、現金収受の運賃箱は残している。ダイヤを維持するためには、交通系ICカードのみの収受にしたかったはず。実際、沿線の小中学校に交通系ICカードを無償配布したほどだ。それでも運賃箱を残した理由は、公共交通機関として現金利用のお客さまを排除したくなかったからだ。市や県の出資を受けているから、市民県民を取りこぼしてはいけないという使命感もある。

宇都宮ライトレールは、車内に交通系ICカードリーダと運賃箱を併設。現金利用者を切り捨てない。私が乗ったときは1列車当たり数人の現金利用者がいた(筆者撮影)

 JRは民間企業だから、第三セクターや市営交通とは立場が異なる。それでも公共交通事業者という責任と矜持(きょうじ)を失ってはいけない。ローカル線の利用者数が減り、公共交通の役割を果たせていない。廃止したい――。企業としての気持ちは、よく分かる。ならば駅の窓口廃止も利用者数が減ってから検討すべきだ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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