日産のEV戦略、巻き返しの秘策は? 新たな経営計画「The Arc」を読み解く(4/4 ページ)

» 2024年05月20日 07時00分 公開
[カッパッパITmedia]
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ハードだけでなく「ソフト」で稼ぐ

 日産の新中期計画The Arcの目標営業利益率は6%。2023年度の営業利益率見通しが4.8%であることを踏まえると上昇はしているものの、その上がり幅は大きくありません。他社と比較しても、悪くはないものの、トヨタやスズキと比較すれば見劣りする数字です。

 会見では6%に対し、「為替を考慮していない」という前置きがあったうえで、「EVの販価が想定より早く下がっている」とコメントがありました。EV市場は中国メーカーの競争激化から価格が低下。どのメーカーも現状はほぼ赤字であり、本格参入していけば採算が悪くなり、業績が悪化していくことは避けられません。ただ、世界で燃費規制が強化される中で電気自動車への移行は必然。そうした中でいかに利益を確保していくかが重要となってきます。

(出典:日産自動車)

 日産が今回新たな計画として掲げたのがクルマを売るのではなく、クルマを利用した新規のサービス事業。これまでは販売して終わりだったクルマを今、現在進んでいる、コネクテッド、ソフトウェア技術の開発に合わせてサービスを提供するビジネスモデルを開始。テスラに代表されるOTA(Over the Air)での機能更新や、EVでの電気システムなどの新規事業に取り組むことで2.5兆円の売り上げポテンシャルを見込んでいます。

 EVシフトによって採算性が悪化する中で新たな収益源の確保は不可欠です。競合他社もすでに取り組みを始めており、トヨタやステランティスも同様にソフトウェア/サービス事業の展開を発表済み。テスラはFSD(運転支援システム)のサブスクリプション課金をすでに始めています。サービス事業は製造業よりも利益率が高く、2020年代後半は自社のクルマを活用した新規事業の成否が自動車メーカーの業績を決めていくのかもしれません。

(出典:日産自動車)

 前回の中期計画「NISSAN NEXT」では目標を達成し、赤字から脱却。構造改革もすすめ、「筋肉質」な経営になった日産。ただ一方で販売台数、シェアは低下。その挽回、そして来るべきEVシフトに向け、方向性を示した今回の新規中期計画The Arc。名が示すように弧を描いて、再びシェア拡大、そしてEVシフトを成功させることができるのか。今後の新車投入の状況、そして新規事業にも注目です。

本記事はtheLetterでのカッパッパさんの執筆記事「【日産新中計】『仲間』と共につくり上げるEV巻き返し戦略」(2024年4月13日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

カッパッパ

Tier1自動車部品メーカーで働く入社10年を超えた中堅社員。普段は作業服に身を包み、工場と事務所、仕入れ先やお客さんとの間で、汗をかきながら現地現物をモットーに働く。

Xアカウント:@kappapa03


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