日産のEV戦略、巻き返しの秘策は? 新たな経営計画「The Arc」を読み解く(3/4 ページ)

» 2024年05月20日 07時00分 公開
[カッパッパITmedia]
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コアはやはり「電池」

 EVの競争力を決める大きな要素となる電池」。ユーザーにとって重要な性能となる「航続距離」や「充電時間」を左右する部品であり、作る側にとっては多くの製造コストを占める基幹部品です。品質が高いという前提で、いかに性能が良く、安い電池を採用できるかが自動車メーカーの命運を握っています。

 今回日産が発表した電池戦略は3点。

 1つ目は現在も「アリア」などに搭載されているリチウムイオン電池の改良です。アリア基準で急速充電時間/エネルギー密度を2024年+10%、2026年+25%、2028年+50%にする計画。リチウムイオン電池はこれまでの自動車業界でも主力になってきた電池であり、日産もリーフから続く開発の中で、大きな知見があります。性能50%UPは高い目標に思えますが実現すれば、ネックとなっている航続距離、充電時間の問題が解消され、EV普及の大きな後押しとなっていくことでしょう。

リチウムイオン電池の改良で航続距離、充電時間の問題解消を目指す(出典:日産自動車)

 2つ目はLFP電池。LFP電池はエネルギー密度はリチウムイオン電池よりも低い一方で、レアメタルの使用が少なく、安価で生産できる特徴があります。LFP電池を採用することで電池コストを30%削減(サクラ比)、28年から発売される軽EV(おそらくサクラモデルチェンジまたは後継車種)に搭載される予定です。

 軽で求められるのは価格の安さです。日本でEVを普及していくためには軽での販売拡大は必須要素であり、電池の値段が下がることでよりハードルが下がる→シェアが増えていくことが予想されます。軽EVサクラが成功を収めているだけに日産としても、現在の軽EVパイオニアの地位を確立、維持していきたいところです。

安価で生産できるLFP電池を採用することで手頃なEVを提供(出典:日産自動車)

 3つ目は全固体電池。EVのゲームチェンジャーとして期待されています。実現ができれば、安全性/エネルギー密度の高い高機能な電池がEVに搭載でき、ガソリン車並みの利便性を持つため、各社が力を入れて開発を進めています。

 日産では現在、試作生産準備段階。今年はパイロットの生産ラインの稼働を開始、2026年には試作車に搭載される予定。販売開始は2028年とまだ先ですが、全固体電池が量産されれば、EVの「不便」が解消される1台になることは間違いありません。コストが高いと見込まれるため、まずは高級車からの展開になると思われますが、「ゲームチェンジャー」であるだけに今後の開発動向に注目です。

EVのゲームチェンジャーとして期待される全固体電池の開発を加速(出典:日産自動車)

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