――女性向けも含めて、刃物業界の課題をどのように捉えていますか。
われわれは自社を「総合刃物メーカー」と呼んでいます。例えばカミソリで言うと、カミソリだけのメーカーがあり、爪切りは爪切り、包丁は包丁という形でメーカーが別れている場合が多いのです。その点われわれは、刃物全体で課題を意識しているので、そのような他社はあまりないと思います。
私共も岐阜県関市という刃物の町から興った事業者ですが、地域を見ても後継者不足の問題があります。そして刀鍛冶のような事業者は年々減少しています。失われつつある技術でもありますので、伝統産業としての刃物をいかにして次世代に継承していくかが課題です。
われわれは工場による上質な大量生産品を目指していますので、こうした職人の手作りとは対極的な立場にはいます。しかし、伝統産業としての刃物を次世代につなげていくことは一つの使命だと思っています。
それはただ伝統産業を守るだけでは意味がありません。しっかり顧客に求められるものを産業にし、次世代につないでいくことが必要です。顧客が必要としているニーズは何か、顧客が気付いていない悩みは何か。どうやって寄り添いながら解決していけるか。そういった課題解決を商品の開発によって常にやり続けることがわれわれの使命だと考えています。
――創業地である関市での、鍛冶職人の後継者問題で、何か取り組んでいることはあるのでしょうか。
2023年に、社内の開発コンペで「野鍛冶承継プロジェクト」を始めました。これは島根県から純度の高い玉鋼を持ってきて、社員が日本刀作りに取り組むものです。かつて関には刀鍛冶が多くいたのですが、明治期の廃刀令によって、多くは身の回りの刃物を作る鍛冶職人になっていきました。これをわれわれは「野鍛冶」と呼んでいるのですが、こういった職人が少なくなっています。
技術の継承は必要だということで、当社の社員が鍛冶職人に弟子入りする形でそれを学び、後世に受け継ぐ取り組みをしています。
――遠藤社長は貝印創業家の生まれで、2008年に慶應義塾大学を卒業後、新卒で貝印に入社。2021年5月に35歳の若さで社長になりました。入社後に創業家の人間として気を付けてきたことや、トップとしてマネジメントする際のポリシーはありますか。
創業家の長男ということもあり、ゆくゆくは跡を継ぐ前提で貝印に入社しました。先代の社長である父も30代で社長に就任しているのもあり、私も同じ年代で社長に就任した経緯もあったと思います。
創業家ではあるものの、社員の皆さんや地元の方々を含め、いろいろな人たちに支えられて、貝印の歴史を紡いできました。こうした方々に対する感謝の気持ちとリスペクトを持つことが大事です。
その上で、マネジメントしていく際には、やはり自分自身が謙虚になっていろいろなものと誠実に向き合うことが必要だと思っています。普段から自分自身を律して、他の人から後ろ指を指されないように臨むことを常に心掛けています。
――創業家の人間ならではの心遣いは大変だと思います。
ある意味それが日常になっていますので、自然な形でできるように心掛けています。それを続けることで、変に気負わずとも、自然体でありながらも体現できると思っています。
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