アイリスオーヤマの経営で興味深いのは、新陳代謝と変化をすることを仕組み化していることです。
大企業病を防ぎ、常に新しい価値を消費者に提供するために、アイリスオーヤマは経常利益の50%を新市場開拓のための投資にまわします。
また、新製品の売り上げ比率を売り上げ全体の50%以上にすることを目標にしています。ここで言う新製品とは発売して3年以内の製品を指します。
新製品比率50%という目標を1990年頃から意識するようになり、新製品比率は1991年以降で50%を切ったことはほぼないとのことです。2010年代に入ってからは、LED電球や家電、お米などの新製品を投入するようになったこともあり、60%前後を維持しているそうです(2019年度は売上高に占める新製品比率は64%)。
他にも変化に対応する仕組みはあります。
設備稼働率の目標設定を、あえて70%以下にとどめています。稼働状況に常に余裕を持たせ、突発的なニーズにも対応できるようにするためです。
アイリスオーヤマの「どんな環境でも利益を出す仕組み経営」は、一見すると非効率でも、長い目で見ると広い視野では理にかなっています。
アイリスオーヤマには「全社的に顧客起点になる伴走する仕組み」があります。
企業内の全ての部門が顧客ニーズや期待を中心に据え、それにもとづいて連携して動く体制です。アイリスオーヤマでは、製品開発から販売に至るまで、企業活動の各段階でユーザーインからの顧客視点を組み込んでいます。
新製品の企画段階から製造、マーケティング、販売、アフターサービスに至るまで部門間の壁を超えて協力し合います。
これは、一般的な企業組織で見られるリレー型、すなわち、各組織で明確な役割があり、役割を終えれば次の組織にバトンを渡す業務プロセスの流れとは異なります。各部門が個別最適ではなく、顧客目線のユーザーインからの全体最適を目指して動くわけです。
例えば、製品開発部門と販売部門が密に連携し、市場の動向や消費者の声や反応をリアルタイムで共有し、製品開発に反映させることで、ユーザーニーズに沿ったユーザーインの製品を生み出せるのです。
アイリスオーヤマの伴走するアプローチの中心には、社内の意見や情報を1つの場で共有し、迅速な意思決定を行う「プレゼン会議」があります。
プレゼン会議では、社長と関係部署の意思決定者の全員が製品のアイデア段階から関与し、同じ目線になり消費者ニーズを理解し、新製品開発の決断を下します。プレゼン会議によって部門間の協力と情報共有が促進され、組織全体が一致団結してユーザー満足度の向上を追求します。
アイリスオーヤマの各組織が伴走する仕組みは、単に製品開発を効率化するだけでなく、企業文化や組織の働き方にも大きな影響を与えています。
一般的な組織運営において生まれる障壁を取り除き、部門間の協力とコミュニケーションを強化することで、ユーザー中心の企業文化を構築しています。これにより、消費者がまだ気付いていない潜在的な望みや不満にも対応し、市場を創造する新製品をつくり出すのです。
今回は、書籍『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』(大山健太郎) を読み、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
本記事はtheLetterでの多田翼さんの執筆記事「ユーザーインと伴走型経営。アイリスオーヤマのいかなる時代環境でも利益を出す仕組み」(2024年5月17日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
多田 翼
Aqxis合同会社 代表
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。京都大学大学院 工学研究科修了。
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