マーケティング・シンカ論

“勝ち手法”だった「インフルエンサーマーケ」 急激に失速した2つの要因日本のマーケティング最前線(1/3 ページ)

» 2024年04月23日 08時30分 公開
[小林幸平ITmedia]

日本のマーケティング最前線

“マーケティングで成功した会社”といえば、みなさんはどの会社を思い浮かべるだろうか? アップル、コカ・コーラ、P&G、ロレアルなど、よく外資系企業が名前を挙げられる。

しかし、実は日本にもマーケティングで大きな成長を遂げた会社がたくさん存在する。

本連載では、マーケティングで成功をあげるための本質的な考え方・思考法を、外資マーケティングの最前線で戦ってきた小林幸平氏が、独自のマーケティングフレームで解説する。

筆者プロフィール:小林幸平

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京都大学大学院医学研究科卒業後、 日本ロレアル株式会社に入社。新規ヘアケア製品ノーシャンプーのプロダクトマネジャーとして新製品の開発および販売戦略立案を担当し、同製品は楽天市場総合ランキング1位を獲得。その後デジタル・イーコマースにおけるマーケティング責任者として事業拡大戦略の立案と推進に取り組んだのち、2019年8月よりメイベリンニューヨークのアジアヘッドクォーターにてリージョナルマーケティングマネジャーとしてビジネス統轄を担う。その後、2021年2月よりノバセル株式会社の執行役員として同社事業を牽引。

合同会社スモールミディアムCEOとして、D2Cブランドの経営も行う。

公式noteはコチラから。


 この10年、小売店などの中間業者を挟まず、SNSや自社ECを通じて製品を顧客に販売するビジネスモデル「D2C」(Direct To Consumerの略)が活性化し、多数のブランドが乱立した。

 前回の記事では、このD2Cのビジネスモデルが、薬事法やステマ規制、価格競争の激化などを背景に市場が厳しくなり、冬の時代を迎えているということをお伝えした。

D2Cはオワコンなのか 多くのブランドが淘汰された背景に“闇深い”事情

 D2C事業社の多くはこれまで「インフルエンサーマーケティング」での顧客獲得に注力してきた歴史がある。このインフルエンサーマーケティングが今、急激に失速している。

 この荒波の時代においても、独自のマーケティング手法を磨き続け、顧客獲得を続けるプロフェッショナル企業になるためには、インフルエンサーマーケティングを取り巻く厳しい状況を正しく理解し、「ファンマーケティング」にアップデートしていく必要がある。

 今回の記事では、歴戦のD2C強者たちが実践する、最先端のマーケティング手法「ファンマーケティング」の実態に迫る。

かつては盛り上がりを見せた「インフルエンサーマーケ」の実態

 ファンマーケティングを語る上で、まずは正しくインフルエンサーマーケティングについて理解する必要がある。

 インフルエンサーマーケティングとは、インスタグラムやXで多くのフォロワーを持つ芸能人などに自社製品やサービスを使ってもらい、それをPRとして投稿してもらう手法だ。

 この手法がマーケティング界隈(かいわい)で市民権を持ち始めたのは、10年ほど前に発売されたBOTANISTというシャンプーがきっかけだろう。

 もちろん今までも有名人に自社製品を使ってもらい、プロモーションとするマーケティングは一般的であったが、BOTANISTが特徴的だったのは、“マイクロインフルエンサー”を活用したことである。

 マイクロインフルエンサーとは、フォロワーが1万人から10万人程度の、いわゆる「その特定のカテゴリーに詳しく、発信力のある人」だ。

 例えば化粧品が好きで、化粧品の投稿にとがって投稿し続け、数万人のフォロワーを持つような人は、その領域における強い影響力を持っている。

 よく企業がインフルエンサーに投稿依頼をする場合は、1フォロワー1円換算といわれるが、100万人のフォロワーを持つ有名人1人だけに100万円を払ってプロモーションしてもらうより、数万人のフォロワーを持つマイクロインフルエンサー10〜20人が一斉にその商品をおすすめした方が購買率が上がるという原理だ。

 これは読者の皆さんも、普段YouTubeやインスタグラムなどを見る際に体験したことがあるだろう。

インフルエンサー かつては盛り上がりを見せた「インフルエンサーマーケ」も失速か(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 このインフルエンサー施策を特に活用してきたのがD2C企業だが、ここ数年、ビジネス系や生活雑貨系など幅広いインフルエンサーが登場し、さまざまなカテゴリーの企業が1つの施策として活用する時代となった。

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