マーケティング・シンカ論

「CPA至上主義」のマーケターはいずれ敗北する……背景に2つの理由日本のマーケティング最前線(1/2 ページ)

» 2024年02月07日 08時00分 公開
[小林幸平ITmedia]

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ツールを導入してマーケティングを強化する企業が増えている一方で、思い通りの成果を出せないと感じている企業が多いことも事実だ。セールスとマーケティングを連携することで、売上に貢献する仕組みづくりを解説する。

日本のマーケティング最前線

“マーケティングで成功した会社”といえば、みなさんはどの会社を思い浮かべるだろうか? アップル、コカ・コーラ、P&G、ロレアルなど、よく外資系企業が名前を挙げられる。

しかし、実は日本にもマーケティングで大きな成長を遂げた会社がたくさん存在する。

本連載では、マーケティングで成功をあげるための本質的な考え方・思考法を、外資マーケティングの最前線で戦ってきた小林幸平氏が、独自のマーケティングフレームで解説する。

筆者プロフィール:小林幸平

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京都大学大学院医学研究科卒業後、 日本ロレアル株式会社に入社。新規ヘアケア製品ノーシャンプーのプロダクトマネジャーとして新製品の開発および販売戦略立案を担当し、同製品は楽天市場総合ランキング1位を獲得。その後デジタル・イーコマースにおけるマーケティング責任者として事業拡大戦略の立案と推進に取り組んだのち、2019年8月よりメイベリンニューヨークのアジアヘッドクォーターにてリージョナルマーケティングマネジャーとしてビジネス統轄を担う。その後、2021年2月よりノバセル株式会社の執行役員として同社事業を牽引。

合同会社スモールミディアムCEOとして、D2Cブランドの経営も行う。

公式noteはコチラから。


【お詫びと訂正:2024年2月8日午前9時00分 誤字があり、一部修正をしました。お詫びして訂正いたします。】

 昨今Webマーケティングが全盛期を迎え、ついにWeb広告市場がテレビCMを抜く時代が来た。

 それとともにこんな会話が飛び交う時代にもなった。「うちの会社のマーケティングチームは、全てCPAで管理している」――。いわゆる業界で言うところの「CPA至上主義」がこの数年で定着した。

 CPAとは、Cost per AcquisitionまたはCost Per Actionの略で、要は「顧客獲得単価」だ。1顧客を獲得するために平均でいくらコストをかけているかの指標となる。

 自社のプロダクトのLTV(Life Time Value、顧客生涯価値)を設定し、その範囲内での獲得コストをコントロールすることで、LTV>CPAであればマーケティング投資を行うという考え方だ。

マーケティング 「CPA至上主義」のマーケターはいずれ敗北する……背景に2つの理由(写真はイメージ、提供:画像AC)

 やや専門的なトピックに見えるかもしれないが、実はとてもシンプルな考え方である。

 例えば1つ5000円の高級シャンプーを販売している会社が、100万円のコストをかけてWeb広告を展開し、その効果として100人の新規顧客を獲得したとする。

 この場合、CPA(Cost per Acquisition)は100万円÷100人=1万円となる。1人のお客さまがこの高級シャンプーを年間で平均3回購入してくれるとすると、LTVは5000円×3回で1万5000円。LTV(1万5000円)よりもCPA(1万円)の方が安いため、このWeb広告のプロモーションはコスト効率が良い、という判断になる。

※LTVの計算式はビジネスモデルによって異なるが、本記事では複雑化を避けるため「購入単価×一定期間における平均購入回数」とする。

 この“CPA至上主義”な考え方は、正しい1つのビジネス指標であり、これ自体が間違っているわけではない。しかし多くの会社のマーケティングを見る中で、この考え方の本質を見誤っている企業も増えてきた。

 一見正しそうなこのCPA至上主義のマーケティング思考、何が問題なのか。実際のマーケティングの現場の視点で解説する。

CPA至上主義が通用しない 背景に2つの大問題

課題1:LTV>CPA構造が実は作れていない

 よく「うちのプロダクトのLTVは2万円だから、1顧客獲得は2万円以内までならどこまでもマーケティング投資できる」という会話を耳にする。これだけだと正しいように聞こえるが、問題の本質はLTVの計算方法にある。

 この問題が起きやすい市場としてD2Cがある。化粧品や健康食品を始めとして、比較的原価の低い領域でオンラインでの販売を主とするのがD2Cビジネスだ。

 私も、自身が経営する会社で化粧品D2Cブランドを持っている。理解を深めやすくするための一例として実際の事例を紹介しよう。

 当社では平均単価3000円のシャンプーを販売し、1人のお客さまが平均5回購入してくれるので、LTVは1万5000円となる。

 多くの方がこれだけを見れば、「原価率を考えても、1顧客あたり最大1万円以内で獲得できればこのビジネスは回る」とお思いだろう。

 ここで加味できていないのがこの先の成長性だ。実際にD2C領域では模倣品が数多く存在し、お客さま目線で見ると類似の製品が多数存在することが多い。また、自社製品で検索した際、他社に自社製品の検索キーワードを買われてしまうことも多いため、比較的容易に他社に自社顧客を奪われるケースが多いのだ。

 現時点で平均購入回数が5回だったとしても、あくまでそれは“今”の話であり、1カ月後には3回、2回……と購入回数が減っていくかもしれない。つまり、LTVが没落しているケースが往々にして起こり得るのだ。

 これは特に、顧客と自社との間でロイヤリティーを形成できていない場合に起きがちである。皆さんの中にも「たまたま広告で出てきたからとりあえず1回買ってみたけど、別に特段嫌いでもなければ好きでもない。2回目の購入は止めておこう」と思ったことがある人も多いはずだ。

 一方で、例えばディズニーランドやUSJのように、確立されたブランディングがあるカテゴリーにおいては、このようなチャーン(解約や離脱)が起きにくいため、LTVの範囲でCPAを抑えていれば、マーケティング投資をコントロールできる。

 ただし、世の中で明確に確立されたブランディングができている会社やサービスは相当少ない。改めてこの“正しいLTV”の把握と、その変動を加味したCPAマネジメントができるかが、現代のマーケターに求められるスキルなのである。

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