マーケティング・シンカ論

「CPA至上主義」のマーケターはいずれ敗北する……背景に2つの理由日本のマーケティング最前線(2/2 ページ)

» 2024年02月07日 08時00分 公開
[小林幸平ITmedia]
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課題2:CPAの回収期間を短期で読み過ぎている

 課題の一つ目ではLTVをベースに課題を指摘したが、CPAの測定でも多くの会社において問題が散見される。短期CPAだけで判断してしまうケースがとても多い。

 よくWeb施策を回すと、そのクリックにひも付いた媒体・期間ごとの詳細なCPAレポートが提出される。これはあくまで短期のCPAを表示したものだが、多くのケースで自社製品の指名検索ワードにおける広告パフォーマンスが最も良い(例:シャンプー「パンテーン」であればもちろん、パンテーンという単語で検索される事が最も多い)。

 この短期CPAだけに捉われた結果、LTVを下回るコストで獲得できるチャネルがなくなり、これ以上顧客獲得できないというフェーズが必ずどのサービスにも来る。

 しかしながら、このCPA至上主義の考え方から脱却できないマーケターが多い。拡張性のあるマーケティングに移行せず、プロダクトをスケールできなくなるケースがかなり多いのが現実だ。

 つまり短期CPA思考は、マーケティングにおいて正しい側面はありながら、一方で投資における縮小均衡を生みだし、成長を止めてしまう側面も持ち合わせているのだ。

CPAにとらわれ、マーケ施策を失敗させないために意識すべきコト

 では、これらの課題を解決するにはどうすれば良いのか? 正しくLTVとCPAを捕捉することが重要だ。

 まず、現在のLTVをベースに内的要因(自社)だけでなく、外的要因(顧客・競合)も常に把握したうえでLTVを予測する必要がある。

 例えば、自社製品を3回購入した後に解約されるケースが多いことが分かっているのであれば、その前に顧客との接点を持ち、現時点のフィードバックを聞いたり、特典を付ける事で4回目購入へのコンバージョンを上げたりと対策できる。このような工夫で手法が確立できたのであれば、それはポジティブな内的要因だ。

 一方、ちょっと昔のタピオカドリンクのように、明らかに一時的なトレンドの傾向が強いと判断し、先んじてLTVが落ちる事を加味するのは、外的要因を考慮してLTV予測をしたということだ。

 100%の精度で今後のLTVを予測することは不可能だとしても、常にこの考え方をマーケティング現場で実施できれば、先んじた機会・危機に備えられる。

マーケティング (写真はイメージ、提供:画像AC)

 最後に正しいCPAとは、短期CPAと中長期CPAを分けて管理することである。

 短期CPAについては上記で述べた考え方だが、中長期CPAとはその回収期間や計測ポイントの幅を広げる事で算出できる。

 例えば、一般的にテレビCMなどの認知広告は、リスティングなどの獲得型広告に対して5〜10倍ほど短期の獲得効率が悪化することが多い。ただし、中長期(認知施策では一般的に半年を回収期間とみる)での貢献でみれば、獲得広告と同じ水準とまではいかないが、大きく改善することが多い。

 このような積み上がり効果・残存効果と呼ばれるものは、獲得広告のような短期CPAでの計測がフィットするマーケティング手法では見られない。このように測定期間を伸ばして評価すること以外にも、認知広告は直接的な広告効果だけでなく、その他のマーケティング施策にも影響を及ぼす。

 認知広告を実施したことによる代表的な副次効果として、以下の3つが挙げられる。

  • Webマーケティングにおける短期CPAが改善すること
  • 大規模な認知施策を実施することにより、そのドラッグストアにおいて一番お客さまの目につきやすい場所に自社製品をおいてもらえる
  • 認知広告を打てるくらいしっかりした会社なんだというイメージがつき、採用が円滑に進む

 このように、広告効果の計測ポイントの範囲を正しく捉えることで、一部の考え方に寄らない、正しい投資判断が実行可能となる。

 今回は実際のマーケティング事例とともに、現代病ともいえるCPA至上主義の課題や、その解決策をご紹介した。ぜひ普段の業務にもこのような考え方を導入し、正しいマーケティングの意思決定を取ることで、素晴らしい製品が正しく世の中で評価される時代を創っていきたい。

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