マーケティング・シンカ論

ハリポタ・マリオだけじゃない USJが見せつけるマーケティング力のすごみ日本のマーケティング最前線(1/2 ページ)

» 2023年12月07日 08時00分 公開
[小林幸平ITmedia]

日本のマーケティング最前線

“マーケティングで成功した会社”といえば、みなさんはどの会社を思い浮かべるだろうか? アップル、コカ・コーラ、P&G、ロレアルなど、よく外資系企業が名前を挙げられる。

しかし、実は日本にもマーケティングで大きな成長を遂げた会社がたくさん存在する。

本連載では、マーケティングで成功をあげるための本質的な考え方・思考法を、外資マーケティングの最前線で戦ってきた小林幸平氏が、独自のマーケティングフレームで解説する。

筆者プロフィール:小林幸平

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京都大学大学院医学研究科卒業後、 日本ロレアル株式会社に入社。新規ヘアケア製品ノーシャンプーのプロダクトマネジャーとして新製品の開発および販売戦略立案を担当し、同製品は楽天市場総合ランキング1位を獲得。その後デジタル・イーコマースにおけるマーケティング責任者として事業拡大戦略の立案と推進に取り組んだのち、2019年8月よりメイベリンニューヨークのアジアヘッドクォーターにてリージョナルマーケティングマネジャーとしてビジネス統轄を担う。その後、2021年2月よりノバセル株式会社の執行役員として同社事業を牽引。

合同会社スモールミディアムCEOとして、D2Cブランドの経営も行う。

公式noteはコチラから。


 数年ぶりにユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に足を運ぶと、チケット代より高いファーストパスが全て完売、キャラクターグッズを身に着けた家族がたくさん歩いている……想像を超える大盛況で驚いた。

 私は関西の生まれで、高校生の時の修学旅行もUSJだった。その後、大学生になっても時々USJには行っていたので、それなりにはUSJのことを知っているつもりであるが、当時大学生の間でUSJに行く理由は明確だった。

 「全然人気がなくてがらがらだからたくさんアトラクションに乗れるし、その割に年パスがやたらと安いから」

 要は牛丼チェーンと同じである。安くて、早くて、そこそこいい。

 人気がなくてがらがらで、格安の年パスを売るテーマパークから、昨今のUSJは「高くても皆が行きたい場所」に変化を遂げた。

 この大成長は、ハリーポッターをはじめとする大人気作品とのコラボだけで実現したわけではない。

安くてガラガラ→「高くて大混雑」 それでも人気なワケ

 USJは「安くて、空いてるからたくさん乗り物に乗れる場所」から「高くて、とても混んでいるのだけれど、それでも行きたい場所」になった。

 そもそも、安くてアトラクションにすぐ乗れること自体は立派なマーケティング戦略であるが、牛丼やコンビニのような生活インフラとは違い、テーマパークとしては当時致命的なポジショニングだったと言える。テーマパークは「絶対に行かないといけないもの」ではなく、「行きたいから行く場所」なので、ただただ安くて、たくさん乗れるだけではすぐに飽きてしまうのだ。

 実際、USJの年間入場者数は2001年の1102万人を境に年々減少していた。

 しかしここからUSJはマーケティング会社「刀」の代表取締役森岡毅氏が、ハリー・ポッターエリアの新設など大きな転換点を作り、変化を遂げた。14〜16年度の3年間連続で年間入場者数が過去最高記録を更新した。

 ここまでは多くの書籍や記事で語られていることであり、多くの方にとって既知の事実だろう。しかし、USJはまさに今、マーケティングの力を使って本当のすごさを見せつけている。

 17年以降は入場者数が非公開となっているものの、今年に入っても勢いは衰えるばかりか伸びていく一方で連日大盛況。ついにチケットの値段は1万円(価格変動制)の大台を更新した。

 いくつかの乗り物が優先的に乗れるファーストパスも、1万円を超える金額にもかかわらず多くの日で完売、買うことさえ難しい。パーク内におけるグッズ購入も盛況だ。

 多くの記事で、この理由をハリー・ポッターやマリオなどの新しいアトラクションによるものだとする声がある。確かにそれは一つの理由ではあるが、それだけでここまで成功できるだろうか。この本質的な成功理由をリサーチするために、10年ぶりにUSJに足を運んだ。

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