マーケティング・シンカ論

ハリポタ・マリオだけじゃない USJが見せつけるマーケティング力のすごみ日本のマーケティング最前線(2/2 ページ)

» 2023年12月07日 08時00分 公開
[小林幸平ITmedia]
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USJ流・ブランディング戦略 3つの肝

 今回お伝えしたいのはUSJの、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の高い顧客にフォーカスしたブランド設計の重要性だ。バタービールとポップコーンを片手に、マーケティング視点で観察すると、3つの成功要因を見つけることができた。

マーケティング戦略1:明確でブレない「WHO」の策定

 昨今、WHO(ターゲット顧客選定)と、WHAT(そのターゲットにどんなメッセージを届けるのか)の重要性が改めて再認識されている。

 言うは易く行うは難し。実際のマーケティングの現場ではそのWHOを絞り切れずに幕の内弁当的な訴求をしてしまうケースや、実際にはいないWHOを設定し、プロモーションに失敗する企業が散見される。

 その点、USJのWHOの設定は秀逸だ。

 実際にこの10月にUSJに足を運んでみると、まず圧倒的にファミリー層の遭遇率が高い。直近も学校を舞台としたCMが流れており、子どもが行きたい場所というポジショニングを強固にしている。

 USJのような大型テーマパークになると、さまざまな目的で顧客がくることが予想されるので、このWHOを絞り込むのはとても難しいが、それでも明確な「WHO=ファミリー層」に絞ることで、圧倒的な集客に成功している。

マーケティング戦略2:正しいWHATの設定

 このWHOを絞り込むメリットとして、そのWHOに伝えるべきWHAT(コミュニケーションアイデア)がクリアになることがある。USJはこれを「NO LIMIT!ぶっとべ!ここは超元気特区」というテーマ設定に落とし込んでいる。テーマパークに誰もが求める非日常感をストレートに表現している。

USJ USJ「NO LIMIT! ぶっとべ!ここは超元気特区」(公式Webサイト

 シーズンを跨いでもこの訴求は常に一貫している。クリスマスやハロウィンなど、各キャンペーンでそれぞれ別のメッセージを訴求しているように見えるが、実は根本にあるメッセージは普遍的なもので、どんなときも非日常を提供しているのだ。

 下手に分散させることなく、この「非日常感」の演出というテーマに対して集中的にマーケティング投資を実行しているからこそ、年々そのイメージは積み上げ式で中長期で高まり続ける。

 この結果、その非日常感の中で楽しさを共有し合う女子会のような雰囲気を創出。ファミリー層だけでなく、サブターゲットとして女性グループの集客にも成功している。

 一方で、相対的に見れば意外とカップルでの来場者は少ないことに気付いた。ただしこれは、戦略的にWHOを絞り込むことで相対的にカップルが減ったということだとすれば、やはり選択と集中をしたUSJのマーケティング戦略は素晴らしいのである。

マーケティング戦略3:中長期の売上成長を実現する真のブランディング

 USJが短期的に伸びを実現し、それがハリー・ポッターを代表とする起爆剤によるものであることは自明だろう。

 ただ、一度立ち止まって考えてみてほしい。果たしてそういった目玉商品だけで、ここまで継続的に成長することはできるだろうか?

 確かに目玉商品があれば一度は足を運ぶだろう。ただ、テーマパークという業態の性質上、建設投資にも莫大な費用が掛かるため、一回だけ来てもらってリピートが起きないと投資回収の観点からも非常に厳しい。

 そこでUSJが実現しているのが、ブランディングによる集客だ。

 最近よく、ブランディングという言葉の元、意志を感じない企業広告をみることが多くなったが、そんなときこそUSJのブランディングを改めて再認識したい。

 私の言葉で表現すると、USJは「なんかUSJに行ったら楽しそうな気がする」「非日常を味わえる気がする」というブランディングを成功させたと捉えている。実際、USJに行ったことがなくともそんな印象を持っている人が多いのではないか。

 USJの競合は決してディズニーランドだけではない。家族で過ごす時間として子どもを持つ親が選ぶ場所は、アウトレットや映画館など多くの選択肢がある。その中でも、決して安くないチケット代を払ってまでUSJを選択してもらうためには、明確なブランディングをする必要がある。

 USJは他の選択肢では持ちえない強烈な「楽しそう」というイメージを、普段のマーケティング活動の中でしっかりと定着させているからこそ「選ばれる場所」になっている。

 その価値に共感した顧客が集まった結果、読者の皆さんも経験があると思うが、USJでは自然とクロスセルとして多くのグッズを買ってしまうのだ。

 私が冒頭でお伝えした、LTVの高い顧客にフォーカスしたブランド設計の威力をご理解いただけただろうか。これからもUSJはこのブランド価値をさらに高め、多くのファミリーを魅了し続ける素敵な場所であり続けるだろう。

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