CxO Insights

「広告費0」なのになぜ? 12年前発売のヘアミルクが爆売れ、オルビス社長に聞く戦略(1/4 ページ)

» 2024年03月01日 09時00分 公開
[大村果歩ITmedia]

 オルビスのヘアケアアイテム「エッセンスインヘアミルク」が「@cosmeベストコスメアワード2023 総合大賞」を受賞し、話題を集めている。

 この商品の発売は今からなんと12年前の2011年。今日まで「広告費0」「リニューアルも一切なし」を貫いてきたにもかかわらず、発売から右肩上がりで売り上げを伸ばしてきた。22年の春ごろにはXの投稿がバズり大幅ヒットを記録し、21年からの2年間で販売数は10倍以上増加している。

 なぜこの商品は12年たった今、ベストコスメに選ばれるほどの支持を得たのか。小林琢磨代表取締役社長に話を聞いた。

<後編:「バズり」を逃さず「関係ない商品」も売る――オルビスの緻密な戦略がすごい

コスメ 左:トリートメントヘアウォーター、右:エッセンスインヘアミルク(撮影:幡原裕治)

サブ商材なのに……熱狂的なファンを獲得

 エッセンスインヘアミルクは美容液入りの洗い流さないトリートメントで、11年に発売した。オルビスはスキンケアを得意とするブランドであり、当初は“サブ商品”の扱いで、店頭にも並べていなかった。

 この商品が注目を集めるきっかけになったのは、18年ごろの大規模なリブランディングだ。小林社長は、低迷していたオルビスを立て直すべく構造改革を実施した。

 同社はもともとカタログ通販をメインに事業を行っていたが、化粧品に限らず、ダイエット食品やパジャマ、台所洗剤など大量の商品を扱う“なんでも屋”になってしまっていたという。

 「周辺商材にメスを入れ商品数を絞り、私たちはスキンケアを中心としたビューティーの会社だというイメージを明確にしたいと考えていました。

 なぜ商品数が増え続けていたのかというと、新商品を出せば、たとえ大して売れなくても一定の売り上げが上がるからです。リブランディングに際し、年間の売上高が一定に達していない商品は全て取り扱いを停止しました」(小林社長)

コスメ 小林琢磨代表取締役社長(撮影:幡原裕治)

 そんな時、1つだけ妙な輝きを放つ商品があった。それがエッセンスインヘアミルク(以下、ヘアミルク)だ。直営店では店舗に並べておらず、広告も一切打っていないのに、じわじわ売り上げを伸ばしていたのだ。

 「ヘアミルクは異常なリピート率を誇っていました。バズる前の翌年継続率(今年1回でも購入した客が翌年も購入する割合)は9割を超えています。一部のロイヤルのお客さまがずっとリピートし続けていたんです。

 この熱狂的なファンであるお客さまの声を、オルビスの既存顧客だけれどまだヘアミルクは購入していない層に発信していきました。もちろん広告費はかけず、メルマガやカタログ通販など、社内に既にあるもので訴求しましたね」

 すると、既存客のヘアミルクへのクロスセル(客がもともと購入しようと思っていた商品とは別の商品を組み合わせて購入すること)が増加。さらに、高いリピート率を誇るため、継続的に売り上げを伸ばし続けたのである。

 「実際に購入いただいている熱狂的なファンの方の声が元になっているので、使用したときにギャップが少なく『本当にいいんだな』と思っていただき、またリピートしてもらえる――そのサイクルがうまく回っていました」

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.