私鉄に「駅が多い」のは、なぜ？ 小まめに乗客を集めている背景：鉄道の雑学（4/4 ページ）

[小林拓矢，ITmedia]

「開発型私鉄」との比較

　よく都市圏の私鉄を論ずる際に、何もないところに線路を敷き、宅地開発とセットで進めるビジネスモデルが出てくることがある。阪急電鉄の創業者・小林一三氏が開発し、関東には東急グループの実質的創業者・五島慶太氏が持ち込んだとされている。

　関東において「開発型私鉄」の代表例は東急東横線であり、戦後に東急田園都市線も誕生した。東急各線の開発時には線路敷設とセットで宅地開発を行い、大学も誘致。地域を栄えさせたといわれている。

東急5000系車両（出典：東急電鉄公式Webサイト）

　そういった路線では、無理をして元からある地域に合わせて駅をつくる必要はない。適切な駅間距離を想定し、それに合わせて駅を設け、街をつくっていく。

　東急東横線は私鉄の中でも駅間距離が長いことで知られ、それゆえに各駅に停車する列車でも比較的速達性が高い。鉄道を建設する際に、渋谷と桜木町（現在は横浜高速鉄道みなとみらい線に移行）をどう結ぶかを意識し、その中で各駅をどう適切に配置していくかを考えた結果、利便性の良い路線となっている。

　その傾向は第2次世界大戦後に開発された多摩田園都市の中心路線・東急田園都市線にも受け継がれている。鉄道で通勤することを意識してつくられた街は、利便性が極めて高いといえる。

　一方、五島慶太氏は「強盗慶太」と呼ばれるほど企業買収にも熱心だった。買収した路線に東急池上線がある。この路線はもともと、池上本門寺参詣のために池上電気鉄道が開業させた路線で、参詣輸送と地域輸送を目的としたものである。駅間距離は短く短距離の利用者も多い。

　東急のメインラインである東急東横線や東急田園都市線とは、明らかに雰囲気が違うところである。

　一部の私鉄が駅をたくさん設け、小まめに乗客を集めようとするのは、経営戦略だけではないのである。もともとそれなりに人が暮らしていたところに線路ができ、歴史のある場所を通っているため、地域の人たちを無視できないという事情があったようだ。