映画はサブスクやDVD化・地上波放送を除くと、消費期間は上映中に限定されます。つまり「タイムリミットのあるコンテンツ」です。
上映期間中に観てもらうには、他の商材と比較しても、短期間の瞬間風速的な話題化が求められます。話題化には、あらかじめSNS上での情報や話題の広がり方を予測した上で情報の出し方や出す順番など、緻密なプロモーション設計が必要です。
つまり、SNS上でどのように口コミ・UGCが広がっていくかを見極め、設計する「UGCドリブン」なプロモーションを企画していくことが重要です。「この人が言うなら観てみようかな」という各SNSクラスタ・コミュニティ内のインフルエンサーへのアプローチや、ストーリー・主題歌・出演者・原作をSNSでの話題化から逆算してフックにしていくのも一つの勝ちパターンです。
一方で、ファスト映画のように情報を事前に提供しすぎると鑑賞意欲を下げることにもつながりかねないため、情報の発信量や出し方のバランスも重要です。
直近では、劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』はさまざまな企業とタイアップし、SNSでコラボコンテンツを発信していました。マクドナルドとのコラボメニューやXアカウントでのキャンペーン、Netflixでの過去作先行配信とXアカウント・電車内ジャック、ananの表紙タイアップなど、あらゆる業種のタイアップ先と多様なコンテンツ・コラボを行ったことで公開前からさまざまな切り口での話題化に成功しました。
結果として、劇場版『名探偵コナン』シリーズ初の観客動員数1006万人、そして興行収入も144億円を突破したことが発表されました(2024年6月2日時点)。
SNS上のUGCやプロモーションによる事前情報が盛んな中、そういった情報が偏重されてしまう兆候を受け、『THE FIRST SLAMDUNK』や『君たちはどう生きるか』はあえて事前情報を一切出さないようなプロモーションを打ち出しました。
『THE FIRST SLAMDUNK』は通常の映画プロモーションと異なり、あらすじや主要な役以外のキャストを一切事前に公開しませんでした。公開後にUGCやファンによる口コミで一気にポジティブな話題が広がり、世界的ヒットを記録しました(参照:徳力基彦(tokuriki)「映画「THE FIRST SLAM DUNK」の大ヒットに学ぶ、非常識を常識に変える作品の力」)。
(作品自体のクオリティが高いことが前提ですが)スラムダンクのようにコアなファンが多い作品においては、一般的なメディア向けの施策やプロモーションを行わなくても、映画制作サイドによるXやYouTubeでのファンへのクローズドな情報発信だけでも口コミによって作品の良さを拡げることは可能といえます。
スタジオジブリ作品の『君たちはどう生きるか』も同様に事前情報がほとんどなく、ポスタービジュアルと原作・脚本・監督が宮崎駿氏であることのみが事前に公開されました。
注意したいのは、こうした事前情報を極力出さないプロモーション方法は、スラムダンクやスタジオジブリのように、原作や制作陣がすでに世の中の多くの人に知られており、コアなファンの多い作品であるからこそ、挑戦できる手法であるという点です。
ときに、ミニシアター系や小規模なプロモーションの作品が、あることをきっかけに爆発的に広がることもありますが、基本的にはこういった作品がSNS含む、事前プロモーションを一切しない方針に踏み切るのは厳しい戦い方ではないかと考えます。
SNSの普及により、SNS上の口コミやUGCをきっかけに映画鑑賞することや鑑賞前に事前情報を参考にすることが当たり前になり、映画鑑賞のジャーニーは変化しました。また、生活者がSNSを活用し情報収集を行うことを前提に、ポスターをシンプル化する動きやあえて事前情報を出さないプロモーションも登場しました。
映画の配給会社や代理店のプロモーション担当は、SNS上で作品についてどのようなUGC・話題が生まれるかを予測し、訴求内容・切り口や方法を見極める「UGCドリブン」なプロモーション設計を実行する必要性が増してきています。
SNSの各プラットフォーム上で好きなものや趣味によるコミュニティ(トライブ)が作られている中、今後の映画プロモーションはより一層、生活者のトライブごとに合わせたプロモーションの切り口や情報を発信する媒体の選定が話題化やヒットにおける重要な要素になっていくのではないでしょうか。
SNSやその中でのコミュニティ形成・トレンドの変遷を追うとともに、映画プロモーションとの相互作用についても引き続き注目していきたいと思います。
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