デジタルマーケティングの世界では、大きな変化のうねりの中で日々、新たなアイデアやトレンドが生みだされ続けている。そんな中でも、特に生活者との重要なコミュニケーションの場になっているのがSNSだ。生活者の心を動かし、ブランドグロースや事業成長に寄与する施策はどんなものだろうか。また、SNSで話題になっては消えていくトピックスの中で、本当にキャッチアップするべきものをどう選別し、そしてどんな視点で解釈するべきか。日々さまざまなマーケティング施策やコンテンツに触れている、電通デジタルのメンバーがSNSマーケの最旬トピックスを解説していく。
皆さんはかつてに比べ、映画作品の日本における告知ポスターがシンプルになっていると感じることはありますか? 第3回では、SNSの普及に伴い、変化しつつある映画プロモーションについてお話しします。
これまで、日本版の映画ポスターは本国と比較して、あらすじや出演俳優陣の受賞歴など説明的なテキスト要素が多く、情報過多だったように見受けられます。
近年、こういった要素は大幅に削減され、ポスター全体のビジュアルが強調されるデザインが増えてきています。これにはどういった背景があるのでしょうか?
映画ポスターがシンプル化しているのには、あらゆる要因が考えられます。ポストコロナのサブスクの隆盛による情報補完や、海外の映画ポスターやプロモーションの影響などなど……。
今回は、その中でもSNSがポスターをはじめ、映画プロモーションや映画業界に及ぼしている変化に焦点を当てたいと思います。
日本の映画ポスターが情報過多だったのは「生活者にきちんと映画の見どころや魅力が伝わらないのではないか」という作品の配給元や代理店の不安の表れではないでしょうか。
SNSが普及する以前の映画の情報収集方法と言えば、劇場での予告編や公式からのお知らせのみでした。近年は、生活者からも映画作品の情報や魅力が提供(補完)されるようになりました。
例えば、映画レビューアプリのFilmarksでのレビュー投稿や、Xでのハッシュタグを付けた感想投稿、YouTubeやTikTokでの考察動画など、映画に関するユーザー発信の情報は多様化しています。このように、SNSを中心とした映画の口コミやUGC(ユーザー生成コンテンツ)に多く接触できる環境になったことで、生活者の劇場での映画鑑賞までのジャーニーは変化しました。
SNS普及前のジャーニーは以下でした。
それが、SNS普及後は以下のように変化しました。
ジャーニーの変化は新たな映画鑑賞スタイルを生み、生活者を取り巻く映画に関する情報環境は豊かになりました。一方で、映画業界にとってはネガティブなトレンドも登場しました。映画の全編や一部を切り取って違法でアップロードしたり、ネタバレを投稿したりするような「ファスト映画」です。
SNSの普及により、映画は鑑賞者起点で新たな潜在層を獲得することや、生活者同士での魅力・情報補完や共有ができるようになりました。一方で、こういった違法な鑑賞や、鑑賞方法が画一化してしまったというネガティブな側面もあります。
劇場での映画鑑賞は1回1900円と、決して安くはありません。生活者は「観に行った映画が面白くなかった」という失敗を避けるべく、宣伝やSNSからの事前情報を参考にします。こうした事前情報を重視しすぎることは、魅力的な映画をはじいてしまったり、鑑賞体験の画一化を招いたりします。感動の幅が制限される可能性も否定できません。
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