しかし労働組合からいくら賃上げを要求されても、ない袖は振れない中小企業も少なくない。日本商工会議所・東京商工会議所の「中小企業の賃金改定に関する調査」集計結果(2024年6月5日)によると、2024年に「賃上げを実施(予定含む)」と回答した企業は74.3%。従業員数20人以下の企業では63.3%と全体より11ポイント低かった。「現時点では未定」ないし「賃上げを見送る」企業が30%前後も存在する。
人手不足の中で賃上げをしなければ人材確保も難しい状況で、最も有力視されているのが「価格転嫁」だ。
価格転嫁についてはこれまで高騰する原材料価格やエネルギー価格の転嫁を推進してきたが、今年新たに「労務費」の転嫁に向けて内閣官房と公正取引委員会が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を出し、労務費の転嫁を認めない企業は「優越的地位の濫用」や下請け法違反として摘発する強い姿勢で臨んでいる。
経団連の春闘指針である「経営労働政策特別委員会報告」でも大企業に対し「適正な価格転嫁の申し出をスムーズに受け入れられるように経営層から取引担当者まで徹底を」と呼びかけている。
ではその効果はどうか。日本商工会議所の「商工会議所LOBO(早期景気観測)」(4月30日)によると、発注側企業との「価格協議の動向」について、「協議を申し込み、話し合いに応じてもらえた」企業は66.0%。「コスト上昇分の反映の協議を申し込まれた」7.7%で、「協議ができている」企業は計73.7%だった。
コスト増加分の中で政府が注力している労務費増加分の価格転嫁については、0割が25.6%、1〜3割程度が35.6%。「4割以上の転嫁」ができた企業は33.9%(前回調査比0.8ポイント減)にとどまる。
業種別では、建設業は「4割以上の転嫁」ができた企業は49.6%と5割に近いが、小売業、サービス業は3割を切っている。
一方、中小企業の中には「今までは原材料、エネルギー価格などのコスト増加分に対する価格転嫁の交渉を行ってきたが、今年は労務費の価格転嫁に向けた交渉を行う予定」(名古屋ボルト・ナット等製造業)といった前向きな声も挙がっている。
もし取引先が労務費の価格転嫁に応じない場合は、公正取引委員会に直接、相談・申告・情報提供することをおすすめしたい。
あるいは経済産業省の「下請けGメン」制度もあり、2023年にはGメンが300人に増員されている。各地の経済産業局に電話し、下請けGメンの訪問調査を希望すれば、来てもらえる。こうした仕組みを活用し、人材確保に向けた賃上げを実現してほしい。
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