キッチンカー事業者は、コロナ禍によって新規参入が増えたといわれる。Mellowの事業規模も、2019年12月末から2023年12月にかけて、トラック数は4倍に、契約スペース数は6倍に伸びた。オフィス街から人が減れば住宅街に移動できるといった移動型店舗の機動力や、「三密」を回避して食事を購入できる点が強みとなった。
しかし、石澤氏は「店舗を持てない人たち」「屋台文化の派生」といったキッチンカーのイメージが変化した感覚の方が大きいと話す。「移動型店舗のメリットが注目されるようになった。キッチンカーの収益化は難しいと言われるが、飲食店の廃業率はどこも高く、結局はその店舗次第。『戦略的に運営する』選択肢がありなんだ、という気づきがあったのでは」。
キッチンカーの活躍の場は、その他の面でも変化しつつある。石澤氏が力を入れる取り組みの一つが防災だ。
きっかけは、同氏がキッチンカーのオーガナイズ事業を展開していた2011年の東日本大震災。災害時に避難者に温かい食事を提供したいと支援を申し出る事業者は多かったものの、それぞれが個別に「何かできることはないか」と行政に連絡してしまうことで、かえって現地の負担につながってしまう問題を目の当たりにしたのだという。
しかし、一般人による炊き出しには食中毒の発生事例もあることから、プロの手による支援に需要があるのも事実だ。それならばプラットフォームが信頼性を確保することによって、キッチンカー事業者の支援を被災者につなげられないか――そんな意図から、2019年の9月に組織されたのが「フードトラック駆けつけ隊」。災害時の炊き出しや支援物資の運搬を目的とした、登録事業者による任意団体だ。
組織後1週間と経たずに発生した令和元年房総半島台風の際には、「この場所に来てほしい」という自治体の要望をMellowがとりまとめてSlackで事業者に共有するという仕組みにより、32の事業者によるキッチンカーを派遣。市原市、館山市、南房総市、山武市で、延べ4000食の食事を提供した。参加した事業者の拠点には千葉県のほか、東京都、神奈川県、埼玉県といった近隣自治体も含まれる。
また、コロナ禍の2020年5月〜8月には、東京都と神奈川県内の複数の病院において、感染対策の観点から飲食店の利用が困難な医療従事者に対して支援を実施。110の事業者により、延べ1万1602食を提供した。
こうした取り組みを受けて、自治体からの「提携したい」という申し出も増加。地域住民の避難先となることが多い「大学」との契約も増えつつあるという。
SNSが捉えた能登半島地震 進化する「企業防災」の形とは
飲食店の多くは苦戦しているのに、なぜキッチンカーは“右肩上がり”なのか
帝国ホテルが好評のキッチンカーを再開 メニューを拡充Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング