しかし、活動の中で難しさが可視化された側面もあり、課題は多い。
まず、支援にあたっての負担を、ある程度事業者の持ち出しに頼らざるを得ない点だ。房総半島台風の際には、特に熱意のある事業者に負担が偏る問題も生じてしまったという。
「熱い人は毎日行きたくなるんです。だから、『あなたは今日行ったから明日はいいです』とスケジュールをわざと外しました。その人自身が続かなくなったら、長期的な支援なんかできない。事業として成り立つようにコントロールしなきゃいけないなと、この時感じました」(石澤氏)
こうした状況を受け、Mellowは2021年に「フードトラック駆けつけ隊」を社団法人化した。いまだ資金面では十分とはいえないものの、これによって賛同する企業から月ごと、あるいは災害等の事案ごとに活動費・食材の提供といった支援を募り、事業者に補填(ほてん)するという仕組みを整えつつあるという。
また、「(出店場所の)ネットワークが整っていないと、発災時の支援活動は難しい」と石澤氏は話す。土地勘のない場所にいきなり向かっても、例えば道路が寸断されていれば迂回(うかい)路を探すことすら難しいためだ。
さらに、自治体との調整の問題もある。災害時の無償での炊き出し行為に対して、食品の「営業許可」は求められない。しかし、キッチンカー事業者が炊き出しを行おうとする場合には、見かけ上「営業」との区分が難しい。そのため、一般のボランティアと異なり、市町村単位で発行される営業許可の有無を聞かれることで、支援につながらないケースも少なくないのだという。
欠かせないのが行政との連携だ。公園などの公共スペースへの出店は、防災対策の面からもニーズがあるほか、にぎわい創出の観点でも自治体にメリットがあることから、連携できないかとの声もあるという。
しかし、キッチンカー事業は公園課、地域振興課といった複数の部署との調整を必要とする。そのため、縦割り組織が障壁になってしまい、導入の話があっても民間企業と比べてなかなか進まないケースが多いそうだ。
提携が成功した例もある。世田谷区では部署をまたいだ横断型チームがMellowと提携し、役所前や公園にキッチンカーを導入。にぎわい創出に一役買う結果となった。少なからぬ反響があり、他自治体からの問い合わせにもつながっているとのことだ。
避難所で炊き出しを実施する旨の自治体との協定は、Mellow以外の事業者においても増えつつある。石澤氏は「千葉県など、発災時に備えて実施要件を明文化する自治体も出てきた。平時はしっかりと事業者が成り立つ経済活動を行い、発災時はそれをぐるっと支援の場所に変えられる体制を作りたい」と話す。
Mellowは今後、どのように事業を広げていくのだろうか。石澤氏は、「『何店舗にまで増やす』というよりは、社会的なネットワークにしていきたい」と語る。
「主に浸透しているのは首都圏ですが都心に偏っていて、郊外の団地などにはなかなか進出できていません。でもそういう所の方が、僕らのサービスは活きるはずなんですよね。ローカルエリアに広げていくためにも、まずは各都市に拠点を作っていけたらと思います」
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