ドクターイエローはなぜ生まれ、消えていくのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)

» 2024年07月13日 09時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

ドクターイエローの引退理由は「老朽化」だけではない

 現行のドクターイエローは、それぞれ製造から23年、19年が経過している。設計のベースとなった700系電車は13〜15年で引退していることから考えても、かなり長く使われている。700系よりも長寿の理由は、運行頻度が少ないからだろう。東海道・山陽新幹線の営業車両は、1日当たり最長3000キロメートル以上走る。一方、ドクターイエローは「のぞみダイヤの計測」が約10日に1度、「こだまダイヤの計測」が約3カ月に1度だ。東京〜博多間で年間約40回の稼働である。

 引退の理由として挙げられた「老朽化」は、車体や走行装置だ。このほかに「計測機器の旧式化」がある。IT機器だから技術の進歩が速い。技術者が計測データを分析し、緊急度の高い結果があれば施設指令に緊急報告する。緊急度の低いデータはUSBメモリに保存して、車両基地でデータベースに登録する。検査機器の性能はどんどん上がっていくし、小型化していく。データ転送もWi-Fiやモバイルデータ通信を使ったほうが速い。だから新しい技術に更新したい。

 もうひとつの理由は、走行性能だ。簡単にいうと現行ダイヤに対応できなくなった。ドクターイエローは日中に営業列車と混ざって走る。だから足並みをそろえるため、他の営業車両と同じ速度で走らせたい。

 先代のドクターイエロー「922形」は“ダンゴ鼻”の0系がベースで最高時速210キロメートルだった。700系時代の東海道新幹線は最高時速が275キロメートルだから、922形は後続の「のぞみ」に追いつかれ邪魔者になってしまった。そこで700系と同じ性能の923形が製造された。

 その後、東海道新幹線はスピードアップに取り組み、N700系やN700Sは最高時速300キロメートルに到達した。N700系は東海道新幹線内も最高時速285キロメートルで走る。そうなると、700系ベースの923形は最高時速が275キロメートルだから、今度は追いつかれる側だ。もう営業車両と足並みをそろえて走れない。

 改良型のN700Aはブレーキ性能を上げ、定速走行装置も搭載した。あわせて信号装置、車内清掃手順の見直しなどを実施した上で、「のぞみ12本ダイヤ」を実現した。これは全ての車両を同じ性能にそろえたからできることだ。そこにはもう700系ベースの923形が入る隙間がない。

 だからこそ、N700Sの性能で走る新しいドクターイエローが必要になる。しかし、JR東海は別の選択をした。それが「営業車両で計測する」だ。

700系をベースとしてつくられたドクターイエロー(右)は、N700A(左)以降に統一された営業ダイヤのなかで走りづらくなった

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