生成AIでデジタル戦略はこう変わる AI研究者が語る「一歩先の未来」
【開催期間】2024年7月9日(火)〜7月28日(日)
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【概要】元・東京大学松尾研究室、今井翔太氏が登壇。
生成AIは人類史上最大級の技術革命である。ただし現状、生成AI技術のあまりの発展の速さは、むしろ企業での活用を妨げている感すらある。AI研究者の視点から語る、生成AI×デジタル戦略の未来とは――。
ソフトバンクグループ(SBG)がAI領域で、新たな医療ビジネスを始める。同社は、米医療ITスタートアップ「Tempus AI(テンパスAI、以下テンパス)」との合弁会社「SB TEMPUS(エスビーテンパス)」を8月1日に始動させる予定だ。
SBGにはソフトウェアやインターネット、モバイル、AIなど多様な領域で革新的なビジネスを日本に持ち込んできた実績がある。今回始めるのは、医療データとAIを駆使することで、日本の医療を大きく変えるきっかけとなりうるサービスだ。遺伝子検査で得られたゲノム情報や、電子カルテなどの医療データをAIで解析。患者ごとに最適な治療の選択肢を提案する。まずは日本人の死因で最も多いがん治療に役立てるという。
6月27日に開いた記者会見で孫正義会長兼社長は、CPU・GPUの演算処理能力の向上、生成AIの進化を強調。特に米国の医師国家試験で、正答率87%(合格ライン60%)をたたき出したGPT-4の能力の向上が目覚ましいと説明した。AIを医療に活用できる下地がすでに整っている。
2015年設立のテンパスは、遺伝子データや電子カルテデータなど、種類の異なるデータをAIも活用して構造化することによって最適な治療の選択肢を示すサービスを手掛けてきた。すでに米国の約65%にあたる2000の病院と連携していて、がん患者約770万件の医療データを保持しているという。
エスビーテンパスの設立は、テンパスにとって初の米国以外の国への本格進出となる。テンパスが米国で蓄積した知見や技術はもちろん、米国のがん患者約770万件の非識別化された医療データを学習したシステムも、活用するという。今後は日本に13カ所ある「がんゲノム医療中核拠点病院」を中心に連携していくことによって、日本のがん治療や創薬の進歩が加速する見通しだ。
エスビーテンパスのサービスを導入する上で、病院や医療従事者の負担は全くないという。電子カルテなど、病院ごとに医療データの規格の違いがあったとしても、情報を変換するエスビーテンパスの「アダプター」を介することによって、統一されたデータに整備できる。構造化されたデータを利用するための導入コストはかからず、医師がデータを整備して出力するなどの業務負担も増えない。病院の利用手数料も無料だ。
その分、得られた医療データを製薬会社に提供することによって収益を得るビジネスモデルになっている。製薬会社にとって、膨大な医療データが得られるのは大きなメリットだ。データを得ることによって創薬の期間短縮や成功確率の向上に加え、経費の削減も期待できる。孫氏は「良いことしかないので、このサービスは日本でも広がると思っている」と太鼓判を押す。
孫氏は2023年に、がんで父親を亡くした自身の体験から「病や死による悲しみを減らしたい」という事業への動機を語った。近年はめったに記者会見の場に登壇しない孫氏が、この日はプレゼンテーションをしたり、医療関係者らとのパネルディスカッションをしたりと、2時間以上をかけた。
背景には、米国と比べて日本の遺伝子検査の実施率が低いという課題がある。米国での実施率が30%なのに対して、日本は0.7%と30分の1以下だ。日本では遺伝子検査が保険適用となる疾患がごく一部という問題もある。手術療法や薬物療法などの標準治療がない固形がん患者や、標準治療が終わった(終了見込みも含む)固形がん患者などが保険診療の対象だ。一方、米国は医療保険制度が日本とは異なり、治療の前に遺伝子検査を受けることが可能だという。
「米国では、がん患者のうち3割が真っ先に遺伝子検査を受けています。日本はその0.7%の、年間で2万件しかありません。がんと診断されてから、手術だとか投薬だとかさまざまな標準治療を受けたあと、つまり最後になってから遺伝子検査をしている。これが日本の現状であります。なぜそういう仕組みになっているのか。これからは米国と同じように、遺伝子検査は真っ先にやるべきだと思います。遺伝子検査をせずに治療を開始するのは本末転倒だと僕は思います」(孫氏)
先に遺伝子検査を実施できれば、患者にエビデンスに基づいた最適な治療方法を提供できる確率は大きく上がる。エスビーテンパスのサービスを用いると、既に承認された薬だけではなく、まだ標準化されていない先端治療や開発中の薬を用いた治療の検討が可能になるのだ。そのため従来の薬では効果がなかったり、稀少ながんであったりしても、インフォームド・コンセントを得た上で、新薬の治験プログラムに参加する機会が得られる可能性がある。
孫氏は、人間の知能をはるかに超える能力を持つAIの力で、人間の理解や想像が及ばない方法で問題を解決する「ASI」(Artificial Super Intelligence、人工超知能)の実現を強く訴える。
「今後(北海道から九州まで)13のがんゲノム医療の中核となる病院を中心に、医療データを統一したデータベースを作りたい。それだけでも大前進ですが、さらに300〜500と(採用する)病院を増やしていきたいと思います。日本のがん患者の5割のデータが共通データベースにある状態、米国と同じ状態を数年以内に目指したい」(孫氏)
日本では個人情報の観点やデータ出力までの労力が大きいため、統一されたデータベースによって閲覧できるがん患者のデータはごくわずかだ。エスビーテンパスのサービスによって、膨大なデータを蓄積できるだけでも画期的で、そこにAI解析が実施されることにより日本の医療システムも大きく変えられる可能性がある。
「メディカルサイエンスとデータサイエンスが融合して、メディカルASIの世界を僕は作るべきだと考えています。今まで人類の叡智(えいち)で救えなかったさまざまな難病の方を救えるようになるんじゃないか。ゼロにはならないけれど、少しでも悲しみを減らすことが僕は大事だと思います」(孫氏)
日本の医療業界には電子カルテの普及、病院間での連携など、いまだに解決されていない課題がある。今回の事業では、それらを飛び越えて、病院や製薬会社、患者にとって、医療改革ともいえる提案をしたスケールの大きさがあった。日本にはなかった新たな医療ビジネスに乗り出した孫氏が生み出す好影響に注目したい。
乃木章(のぎ あきら)
フリーランスの記者・カメラマン。アニメ、ゲーム、コスプレ、ファッション、日本酒、ビジネスなど多角的に取材。とくに中国語が得意で、中国・東南アジア市場の取材に注力している。また、カメラマンとしてもアパレル系を中心に撮影。ポートフォリオ。Twitter。Instagram
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