退職代行サービスからの連絡は「今日から、〇〇さんは出勤しません!」「〇〇さんへの連絡は一切止めてください!」というような形で突然来るので、経営者も冷静に受け止めることは難しいです。
しかも退職代行サービスは利用者獲得のためか、少し奇をてらったようなネーミングのところも多く、それがさらに会社の感情を逆なでするという側面もあります。
連絡方法は、電話とFAXのセットが多く、FAXには以下のようなことが書かれています。
突然の退職でもリカバリー可能な仕事であれば良いのですが、長期にわたるプロジェクトであったり、クライアントとの信頼関係が求められたりする属人的な仕事である場合、引き継ぎなしにいきなり退職となると会社にとっても実損が生じますし、他の従業員の不満にもつながるでしょう。
このような場合、会社が弁護士を通じて退職代行サービス利用者に対して損害賠償請求をするケースもあるので、利用者は注意が必要です。和解に至るまで数カ月はかかるので、仮に転職先を決めていても新たな職場に専念する上での足かせになります。
加えて、損害賠償請求への対応は、退職代行サービスとは別ですから、当初予定していなかった支出が発生します。「会社と一切やり取りをせずに簡単に退職できる!」というフレーズに安易に乗ることなく、冷静に判断する必要があります。
また会社においても、退職意向が示されていたにもかかわらず、次の人が採用できるまでと無理に引き伸ばしをすると従業員側もやむを得ず退職代行サービスを利用するという事態に発展する可能性もあります。こちら側の要求ばかりを前面に出さない配慮も必要です。
退職代行サービスから連絡があった場合、例えば就業規則に「退職の際は、30日前に申し出ること」と定めているときはどうなるでしょうか?
労働法の中では、労働者から退職を申し出る際のタイミングに関する定めはなく、会社ごとに就業規則で定めることになっています。よって、それぞれの会社の事情に応じて、独自に「退職の申し出は30日前に行うこと」などと定められています。
一方で、民法では労働者(契約社員等除く)からの退職の申し出について以下の定めがあります。
民法第627条 第1項(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
このような背景から「就業規則」と「民法」という2つの基準が対立する構造になっているのですが、それぞれに違いがある場合は民法が優先されるという考えが現在の主流です。
よって、就業規則で退職は申し出から30日後と期限を定めたり、会社の承認がないと辞められないと定めたりしていても、労働者が民法を根拠に2週間後の退職を申し出てきたときは、会社は原則として応じざるを得ません。
そして、一般的には退職までの2週間について、年次有給休暇を使用するので「今日から出勤しません」という理屈が成り立ちます。なお会社は年次有給休暇の申し出に対して時季変更権を持っていますが、退職日が確定して変更日の設定ができない状態ではこの権利は行使できません。
よって、退職が本人の意向であることを自筆の退職届を提出してもらうことなどで確認した上で、必要な引き継ぎは退職代行サービスを通じて行うことになります。
いずれにせよ、人手不足の時代において採用はもちろん、人材定着が事業成長の要です。退職代行サービスへの対応というよりも、離職者をどう減らすかという大局に立った取り組みが重要です。
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