劇場アニメ『ルックバック』が7月16日までで動員59万人、興行収入10億円を突破した。公開前は大々的なプロモーションを行っていなかったものの、口コミでその人気は広がり、上映館数の増加も発表されるなど勢いを増している。
本稿のメイントピックとしては、同作のクリエイティブな領域ではなくビジネスの領域にスポットを当て、『ルックバック』のメディア展開手法、そしてこの成功例が今後のエンターテインメントの新形態となりえるかを考えたい。
『ルックバック』は漫画『チェンソーマン』などで知られる藤本タツキ氏による読み切り漫画作品で、漫画を描く2人の女性の、特にクリエイターの内面にスポットを当てた物語である。2021年7月の発表時、即日X(旧:Twitter)でトレンド1位になるなど多くの反響を呼び、同年の「このマンガがすごい!2022」ではオトコ編で1位を獲得している。
読み切り作品としては異例の人気を博した同作のアニメ化を、監督・脚本・キャラクターデザインとほぼ全ての工程に関わり、進めたのが押山清高氏だ。映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』や『借りぐらしのアリエッティ』などの原画に携わり、『チェンソーマン』では作中の悪魔デザインを手掛けるなど、その画力が国内外で高く評価されているアニメ監督・アニメーターである。
本作はクリエイターの内面、絵を描くことにまつわる喜怒哀楽が描かれている。原作漫画に忠実で、視聴者の誤解を防ぐ最小限の情報・表現追加のみでアニメ化されており、押山清高氏による藤本タツキ氏への、また登場人物である2人のクリエイターへのリスペクトが見て取れる。
これほど優れた作品の、特にクリエイティブな部分を評するのは野暮(やぼ)であるため、本稿では触れない。漫画好きな人はもちろん、漫画をあまり読まない人であってもヒューマンドラマとして十二分に楽しめる傑作であり、老若男女問わず見る価値があるとだけ述べておきたい。
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