ビットコイン現物ETF実現に向けた課題の中で、業界が最も注目しているのが税率の問題だ。廣末氏は、「現物ビットコインとETFの税率をそろえることが重要だ。そうしないと、ETFが導入された場合に現物市場の流動性が低下する可能性がある」と指摘する。
現状では、現物ビットコインが最大55%の総合課税対象である一方、ETFは通常の株式同様、20%の分離課税になる可能性がある。この税率の差は、取引がETFに集中し、現物市場で売買する投資家が減少する要因になるかもしれない。
「ETFに取引が集中すると、現物市場の流動性低下がより顕著になる可能性がある。その結果、現物価格に依存する金融商品の成立が難しくなる恐れがある」(廣末氏)
現物市場の流動性が低下すると、ETFが必要とするベンチマークの機能にも影響を与える可能性がある。廣末氏は「現物市場の流動性を先に確保することで、ETFにとって好ましい環境が整う。しかし、流動性が低下した日本市場で急にETFを導入しても、適切な価格形成や取引執行が難しくなる可能性がある」と現状認識を示した。
一方で、金ETFの例を見ると、税率の違いが必ずしも市場の障害にならないケースもある。金の現物取引とETFでは税率が異なるが、両市場は共存している。この事例は、ビットコイン市場にも参考になる可能性がある。
こうした複雑な状況下で、業界はさまざまな課題を同時並行で解決する方針だ。廣末氏は「ETFの実現と現物市場の活性化は表裏一体。両者のバランスを取りながら進めていく必要がある」と語る。
具体的な戦略として、まず現物市場の活性化のための施策を進め、税制も分離課税を実現した上で、ETFの導入を目指すという。「現物の分離課税化と現物ETFの、両方を同時に実現することを目指す」と廣末氏は説明する。
ビットコイン現物ETFが実現すると、日本の金融市場に大きな波紋を呼ぶだろう。しかし、税制の問題をはじめとするさまざな課題が、静かな水面の下に潜んでいる。暗号資産をめぐる環境は、再び新たな局面を迎えようとしている。ビットコイン現物ETFという石が生み出す波紋の行方に、市場関係者そして投資家の視線が注がれている。
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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