ドューロフ氏はビジネスにおける自由を確保するため、テレグラムを少人数で運営している。「私が唯一のオーナー、ディレクター、プロダクトマネージャーを担って、長い期間にわたって会社の発展に携わってきたことで、これまでも迅速に行動できた」
採用や人事の役割も自分で担当しているという。「1〜2カ月に一度、コンペを主催して、最も優秀な人材を採用している。勝ち残れば、現在30人いるエンジニアの中に入れるかもしれない。優秀な人材を見つけるのに人事部はいらない」
9億人が使うプラットフォームの開発に、たった30人の精鋭エンジニアだけが関わっているというのだ。さらに広告費もほぼかけていないし、社員数も最小限に絞っている。
ドューロフ氏は言う。「私は、Twitterの創業者だったドーシーに『うちの会社は20人で経営できている。そんなにたくさんの人は必要ない』と言ったら、彼も同意していた。そして、もし本当に必要な数だけに社員を絞ったら、ウォール街がパニックになるだろうと彼は言っていた。もしそんなことをしたら『この会社は何かおかしな状態にある』と見られてしまうから『私たちは多くの従業員を雇っている。要は、株価を高く保つためには、非効率に運営せざるを得なかった』とね」
この考え方は、Twitterを買収した起業家、イーロン・マスク氏にも通じるものがある。マスク氏はTwitterを買収後、世界で80%の社員を解雇した。Twitterを運営していくのに必要な人材だけを残したとされるが、この考え方はドューロフ氏やドーシー氏の言っていることに一致する。ヒューマンリソースの扱いは、IT企業の起業家らにとっては大事な要素であることは間違いなさそうだ。
インタビューによれば、ドューロフ氏は個人的にカネには執着がないらしい。他のIT企業トップなどとは違って、不動産もプライベートジェットも持たない。「私にとっての優先事項は自由であること。不動産を所有すると自分の居場所を制限されてしまう」と語る。
とはいえ、犯罪の温床になったり、テロ情報が飛び交ったり、反政府デモの連絡手段に使われるなど、物議になることも多いテレグラムを運営しているために、特にロシアや中国などには怖くて行けないという。中立であり続けるために、米国にも好んで行こうとはしない。
テレグラムの成り立ちとドューロフ氏の考え方を知って、テレグラムを使ってみようと思っただろうか。怖くて使えないと思った人もいるかもしれない。
ただ少なくとも、暗号化された比較的安全なアプリであるのは確かだ。そして、メッセージングアプリが生活の一部になっているわれわれに選択肢の一つを与えてくれていることも間違いないのである。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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