AmazeVRは2015年、米シリコンバレーで設立された。このような時代を見越していたのか。
「正直に言うと、もっと早くこういう時代が来ると思っていました(苦笑)。創業したときは、2年後の2017年にAppleがVRを発売すると思っていたので、予定より7年も遅くなりました。当時、Apple内ではMeta Questレベルのゴーグルをすでに開発していたと聞いていましたし……。しかしAppleは、完成度の高い商品以外は発売しない社風ゆえに発売がずれ込んだと認識しています」
その間、どうやってビジネスを継続してきたのかを聞くと「市場の状況に合わせた投資をし、効率的な経営をしてきた」と話す。
「初期投資額は600万ドルで、4人の共同創業者たちによる出資です。VR市場が大きく伸びることがなかったので、逆に大きな支出も特にありませんでした。私自身は経営に保守的なところがあるので、10〜15人の少数精鋭の社員だけで経営してきたこともあると思います」
今は約50人の従業員を擁し、共同創業者を含めその多くがエンジニアなどプロダクトを作るメンバーだ。創業時のビジネス環境が厳しい中でも研究開発を継続したことによって、業界でトップレベルのVR技術を持つ。
「MetaやAppleが力を入れている分野の中にVRコンサートがありました。戦略的な位置づけにあるので、いつかはこのマーケットが必ず浮上すると信じてくれた投資家と共に、多くの時間を過ごしてきました」
VRだからこそできることを演出のキム監督に聞くと「ゴーグルを通して本当に間近でアーティストが見られます。CGも合成をしている分、アーティストが伝えたいことやコンセプト、曲のストーリーテリングもCGを通して具現化できるのは強みになっています」と話す。
大規模なコンサート会場で、座席が後方の場合、アーティストが遠く見えてしまう。その結果、大きくアーティストが映し出されるスクリーンを見るのが常だ。VRも画面によってアーティストを見ることになるので、機械を介する点で共通している。
「大型スクリーンでは、カメラが映し出す1つの角度によって観客はそれを見るだけです。一方VRには、その制約がありません。自由度の高さは差別化のポイントです」(キム監督)
VRでは自分の目をどこに合わせるかによって、見たいアーティストやメンバーに焦点化できる。この特性はファンに特別な体験を提供することになるだろう。
制作現場でのAIの活用法については「人が実行してきたことをAIが代替し始めています。カメラでの事例で言えば、グリーンバックで全体の画を撮れれば、AIはバックダンサーを含め、各メンバー1人ひとりを切り抜き、背景と分離できます」と話す。もしAIを活用せずに人が直接作業するとなると、楽曲1曲あたり1000万円以上の費用がかかるそうだ。
「分離以外でも、画像にある細かなノイズも除去してくれますし、レンダリングの速度も速くなりました。これからはAIの活用範囲も広げていくつもりです」
AIにより制作も楽になったかを聞くと「期間が短縮されて楽になった部分があるんですが、だからといって、他の人たちが容易にこなせる技術ではなありません」と胸を張る。キム監督によると、曲自体を全てワンテイクで撮影して、一気に編集をするそうだ。だが1曲あたりのフレーム数は、約1万フレームにも達するという。
「もし、今後VRコンサートの全体の長さを1時間40分で開催すると仮定するならば、約16万フレームあることになります。そうなるとAIを駆使しても、編集の難易度がとても上がり、乗り超えなければならないハードルが増えるのです。高度な技術を持つ当社だからこそできるのであって、他社が簡単にできるわけではありません」
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