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SEVENTEENの「THE CITY」 HYBE JAPANトップに聞く新時代のプロモーション(1/2 ページ)

» 2024年02月16日 12時42分 公開

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ツールを導入してマーケティングを強化する企業が増えている一方で、思い通りの成果を出せないと感じている企業が多いことも事実だ。セールスとマーケティングを連携することで、売上に貢献する仕組みづくりを解説する。

 BTSや、SAKURAらが所属するLE SSERAFIMなどのグローバルスターを輩出し続けるエンターテインメントライフスタイルプラットフォーム企業HYBE。

HYBEの傘下レーベルがマネジメントを手掛けるSEVENTEEN( (P)&(C) PLEDIS ENTERTAINMENT )

 同社の傘下レーベルがマネジメントを手掛けるSEVENTEENは、2023年1〜9月のCD販売量が1000万枚を突破し、紅白歌合戦に初出場。日本の5大ドームで約51万5000人を動員したコンサートツアー「SEVENTEEN TOUR 'FOLLOW' TO JAPAN」も成功させた。

 HYBEがグローバルに展開しているユニークな公演ビジネスモデルが「THE CITY」だ。同社の日本本社HYBE JAPANのハン・ヒョンロックCEOに戦略を聞いた。

HYBE JAPANのハン・ヒョンロックCEO(HYBE JAPAN提供)

エンタメ産業のプラットフォーマー目指す

 一般的な音楽事務所にとっての大きな目標は、所属アーティストをスターにすることだろう。だが、HYBEのミッションはそれだけにはとどまらない。従来型の音楽事務所ではなく、筆者の私見では「エンタメ版GAFA」のような存在になることを掲げているように見える。

 「当社は『We believe in music』というミッションのもと、音楽産業のビジネスモデルにイノベーションを起こします。音楽に基づく世界最高レベルのエンターテインメントライフスタイル・プラットフォーム企業を目指します」

 HYBEの事業は「レーベル」「ソリューション」「プラットフォーム」の3つを柱にしていると、ハンCEOは語る。

 「レーベルはいわゆる『芸能・音楽事務所』的なところで、アーティストを育て、音楽をつくるところです。例えばSEVENTEENはPLEDIS Entertainmentというレーベルに所属しています。レーベルは複数あり、それぞれがHYBE傘下企業として運営される『マルチレーベル戦略』と、私たちは呼んでいます。

 各レーベルのトップの考え方、基準によって運営することで多彩なアーティストを生み出せます。ただし事業を最大化するという観点から、HYBE(日本であればHYBE JAPAN)が会社としての経営方針や公演、公式商品の企画・運営などにおいて一定の裁量権も持っています」

 ソリューションとプラットフォーム事業の詳細はこうだ。

 「ソリューションは事業の1つですが、母体ともいえるところです。例えば『HYBE360』はコンサートやアルバム(CD)の事業を担当しています。レーベルとソリューションを支えるのがプラットフォーム事業で、ファンダムプラットフォーム『Weverse(ウィバース)』を開発し、運営しています」

 Weverseとはダウンロード数1億超の“スーパーアプリ”だ。アーティストのライブ配信、コンサートのオンライン視聴、コンサート公式商品の販売と会場での受取予約サービスに加え、Weverse上で書きこんだコメントや自分のコンテンツ履歴などを一元管理できる。自らのITプラットフォームを有しているのはHYBEの強みだろう。

ファンダムプラットフォーム「Weverse(ウィバース)」(プレスリリースより)

 HYBEは韓国、日本、米国の3拠点体制をとっている。

 「HYBE JAPANは300人以上の社員を抱えています。日本が3拠点のうちの1つなのは、世界第2位の音楽市場として重要視しているからです。だからこそ日本に法人を設立しました」

 日本企業が巨大市場である中国を無視できないのと同じで、韓国にとっても巨大音楽市場である日本に進出するのは必然だった。

 「HYBE JAPANは3つの大きな役割を担っています。1つ目は『HYBE傘下レーベルアーティストの日本事業推進・活動支援』です。韓国発のグループを含め、アーティストごとの日本での目標設定、戦略立案と実行、音楽流通や公演、IP関連事業、コンテンツ制作、商品企画・販売などを手掛けています。

 2つ目は『HYBE JAPAN傘下レーベルの経営・活動支援』です。HYBE JAPAN傘下でHYBE LABELS JAPANが&TEAMを、NAECOが平手友梨奈をマネジメントしています。ユニークなのは3つ目で『HYBE LABELS以外のアーティストの支援』も手掛けています」

「THE CITY」は地域経済にも貢献

 SEVENTEENの韓国デビューは15年5月。日本デビューしたのは18年5月だ。その後、順調に活躍する中で、新型コロナウイルスの影響が活動を直撃し予定されていた初の日本ドームツアーも中止となった。22年に再び日本で、オフラインコンサートができるようになると「THE CITY」というSEVENTEENの人気の高さを証明することになるプロジェクトを展開する。

 「THE CITYはコンサート連動型のイベントです。コンサート開催前後に都市の至るところでさまざまなイベントを開催し、ファンの体験をさらに拡張して提供します。コンサートを開催する都市を、コンサート会場としてだけでなく、まさに都市全体をプレイパークと捉えるものなのです」

SEVENTEEN CAFE(HYBE JAPAN)

 日本で実際にTHE CITYを始める前に、BTSのコンサートに合わせ、米ラスベガスと韓国の釜山で先行して同プロジェクトを展開した。ラスベガスでは22年4月に2週間にわたって開催。オフライン公演には20万人が来場し、写真展に11万人、コラボしたレストランには1万人が訪れた。釜山では同年10月に開催。展示館には10日間で2万人が来場した。

 ラスベガスと釜山での経験を生かして展開した日本では、どんな実績を挙げたのか。22年、SEVENTEENのコンサートは10〜12月に大阪、東京、名古屋の3都市で全6公演を開催。27万人を動員した。

 コンサートと連動したTHE CITYは46のプログラムを展開。25社以上の企業・団体が参画し、25万人が参加した。これをブラッシュアップさせたのが23年の「SEVENTEEN ‘FOLLOW’ THE CITY」だ。30社以上が参加し、70以上のプログラムが組まれた。

 THE CITYを推進するカギとなるのが「ファン」「パートナー」「アーティスト」だ。3者をつなぎシナジーを創出するのが「HYBE JAPAN」となる。

 「ファンの行動には(コンサートを見るまでに)家で準備をする→開催都市に移動する→ホテルに前泊する→食事をする→(観光などで)何かを見る→公演を見る→自宅に帰るという流れがあるとします。その全ての過程において、それぞれの体験価値を最大化させようとする考え方なのです」

 ひと昔前、ファンはコンサート会場にあるグッズ売り場に朝から5〜6時間並び、ようやく購入し、公演を見て帰るということをしていた。これだけが主な消費行動だったのだ。この慣習に疑問を呈し、実行したのがTHE CITYといえる。

 「コンサート公式商品はWeverseで注文・決済をして時間を指定し、会場では引き取るだけにするシステムを整えました。だからファンは並ぶ必要がなくなります。そこで発生した余剰時間を、他のことに費やしてほしいのです」

 THE CITYではファンに街の周遊を促せるだけでなく、その街での思い出を作り、アーティストとコラボした施設での体験や食事、買い物などを楽しむことによって現地経済にも貢献することになる。パートナー企業が受ける恩恵も大きい。

 「公演するタイミングで、アーティストのIPを活用することによりプロモーション・集客が可能になります。アーティスト側としても、街に自身のポスターやパネルなどを至る所に配置してもらえます。ファンが集まるだけでなく、既存ファン以外の人に認知されるきっかけづくりになるメリットがあります」

スタンプラリーで街を周遊

 一連の取り組みの核となるのが、デジタルスタンプラリーだ。初年度は大阪で開催し、23年は5都市に拡大した。大阪の事例を挙げると、16日間で2万8000人のUU(ユニークユーザー)が参加し、その多くが、スタンプのある場所を軸に大阪を周遊したという。このデジタルスタンプラリーの仕組みを見てみよう。まず専用サイトでアカウントを作り、大阪市内にある18地点でQRコードやGPSを使ってデジタルスタンプを取得。集めたスタンプの数に応じて引換所でフォトカードに交換できる。

 例えば、大阪の象徴的な商店街である戎橋筋商店街の入口と出口に、スタンプを設置することによって、ファンは商店街を歩く。ファンは近隣の店に立ち寄る確率が高く、パートナー企業でなくても、気になる店を見つけ買い物をしたら、副次的に周辺エリアの経済が潤う。

 「スタンプラリーに参加したパートナー企業の中には、来場者数や売上高が通常の200%を超えた施設もありました。オフラインとオンラインを融合させることで、ファンが、いつ、どのように動いたのかを把握できるという、利用者の深いデータを取得できました。ファンのニーズを深く理解できたことにより、次回以降のコンテンツ計画への反映や企業との交渉にも活用できます」

 HYBE JAPANのやり方を見てあらためて思うことがある。ITというデジタルを活用する意味は「ファンの行動を可視化できることにある」ということだ。ハンCEOも、これが大きなメリットになっていることを強調した。ただ、すぐに自社の収益につなげることを、目的にはしていないようだ。

 「軸としては、公演を盛り上げることのほかに、ファンが街中にアーティストの大きな肖像やコラボイベントを見つけることによって、アーティストをより誇りに思ってもらえるようにすることを意識しています。ですので、事業として収益の最大化を狙った活動という位置付けではありません。『事業とプロモーションが混ざり合った取り組み』だと捉えてください。よりアーティストを好きになってもらうための手段であり、ファンへの感謝の意味もあります」

 他にも、ラッピングされた列車や観覧車、写真展を開いたり、提携したカフェでメンバーごとのセットメニューを提供したりした。バンダイナムコアミューズメント関連施設7カ所では、バンダイとBANDAI SPIRITSの商品の展示やガチャポンを一部先行発売した。

 RAYARD MIYASHITA PARKでは、全館のBGMをジャック。スターフライヤーとのコラボでは機体に大きくアーティストの肖像をデザインしたコラボジェットが全国を就航するほか、機内ドリンク提供時にオリジナル紙コップを使用したり、SEVENTEENの曲を放送する専用のオーディオチャンネルを提供したりしている。東京メトロともタッグを組んだ。

 「オリジナル24時間券などを販売しました。地下鉄を移動手段とするファンに利用してもらいたいと企画しました」

RAYARD MIYASHITA PARK(HYBE JAPAN)
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