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投資額2200億円 韓国にオープンした米・統合型リゾートが日本を“狙い撃ち”したワケアリーナ建設でゲームチェンジャーに

» 2024年01月26日 08時00分 公開
[武田信晃ITmedia]

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 米MGMリゾーツ・インターナショナルはオリックスなどと手を組んで大阪の夢洲に2030年、統合型リゾート(IR)のオープンを目指している。お隣の韓国では23年11月30日に米モヒガンが開発・運営するIR「インスパイア(INSPIRE)」が、仁川国際空港西側にソフトオープンした。ホテル、カジノ、ショッピングモール、ウォーターパークなど多彩な施設を備えている。特にインスパイアが注力しているのが日本市場だ。

韓国でIR「インスパイア」が、仁川国際空港西側にソフトオープンした(マイケル・ジェンセンCMOの写真以外はプレスリリースより)

 このほど来日したインスパイア・エンターテインメント・リゾートのマイケル・ジェンセン最高マーケティング責任者(CMO)に日本市場に注力する理由を聞いた。

インスパイア・エンターテインメント・リゾートのマイケル・ジェンセン最高マーケティング責任者(CMO)

投資額2200億円 5つ星ホテル 、アリーナ、カジノが集積

 インスパイアは、モヒガンが抱える8番目のIRとしてオープンした。投資額は約2兆ウォン(約2200億円)で、敷地面積は430万平方メートルと広大だ。

 今回、開発したのは「インスパイア1A期」と呼ばれるところで、全体の1割にあたる46万1661平方メートル(サッカー場64個分に相当)の敷地を使い、5つ星ホテル (3棟、1275室)、1万5000席のアリーナ(韓国初の多目的パフォーマンスホール)、コンベンション施設、外国人専用カジノ、デジタル・エンターテインメント・ストリート(デジタルアート空間)、ショッピングエリア、ダイニング施設、屋内ウォーターパーク、屋外体験型エンターテインメントパークがある。

 彼らが海外からの利用者として大きな期待を寄せているのが日本だ。法務省出入国在留管理庁が23年10月に発表した「令和5年上半期における外国人入国者数及び日本人出国者数等について」によると、22年上半期に出国した日本人は新型コロナウイルスの影響でわずか62万7302人にとどまった。だが23年上半期は361万4147人と大幅に回復している。

 JTB総合研究所が同12月に発表した「アウトバウンド 日本人海外旅行動向」で、23年10月の「国・地域別の日本人出国者数」をみると、韓国に向かった日本人は25万5092人となっている。米国へは14万1477人、台湾が9万7534人、タイの5万8205人であり、韓国の人気の高さがはっきりと分かる。

 韓国ドラマ『冬のソナタ』が日本で放送されたのが03年。それから20年以上経過した今、「韓流」はブームではなく、すっかり定着した。

日本だけで来場者の3割を目指す

 まずはジェンセンCMOに、日本でプロモーションをしようと考えた理由から聞いた。

 「日本は私たちにとってフォーカスをしている重要市場です。韓国のインバウンドにとっても大きな存在ですし、地理的にとても近いので、プロモーションを展開することに十分な理由があると思いました。インスパイアでは、アリーナでのショーやわれわれならではのおもてなしなど、本物の韓国体験を日本人に提供できると考えています」

 ジェンセンCMOは、世界に何百とある国・地域の中でも、日本の位置づけが高いことを強調する。

 「韓国国内のマーケットや韓国から2、3時間のフライトが可能な中国、台湾、香港なども重要です。しかし近年のK-POP、韓国料理など、韓国文化の日本での人気の高まりを考えると非常に重要です」

 初年度の年間来場者は350万人を想定し、日本だけで約3割に達すると試算している。MICEにも寄与することを付け加えた。

 「当然ですが、一番多い利用者は韓国人です。宿泊と日帰りがあり得ますが、宿泊であれば50%ほどになるでしょう。日帰りを含めれば韓国人の割合が増えます。その次が日本で30%を占めると予想しています。空港の横にあることで海外客を引き付けるでしょうし、会議や展示会を開催する点でも意味を持ちます」

INSPIRE施設概要

アリーナ建設で「ゲームチェンジャー」に

 IRはホテル、カジノ、ショッピング、MICEなどいわゆる「全部入り」の施設だ。マカオもインスパイアもIRという意味では同じだ。IRという観点で筆者としては、大阪のIRが完成する前までマカオがインスパイアの競争相手となりそうだと感じる。インスパイアにはカジノだけでなく、アリーナ、ショッピングモール、屋外の体験型エンターテインメントパーク、ウォーターパークなどの施設がある。

 マカオのIRを訪れる人はカジノがメインで、オプションとしてショッピングやグルメの他、マカオ内にある世界遺産を訪れるというスタイルも考えられる。では韓国の場合は「韓国旅行をメインとし、それにIRが加わる」形なのか。それとも「IRが主で、オプションとして韓国旅行をする人」が増えるのか。

 「両方でしょう。韓国を訪れる人の大多数がソウルを訪れます。ソウルから空港は近いので、オープンからしばらくの間は、韓国旅行のオプションになるでしょう。しかし今後、各種施設をどんどん開業していくと、インスパイアだけでも十分に魅力的な場所になり得ます。そうなれば、インスパイアをメインとし、ソウル観光を追加する人も増えるはずです。今はソフトオープンしたばかりなので1泊が多いのですが、国内の客なら2泊、海外客なら3泊の滞在まで伸びると予想しています」

 そこで気になるのはホテル代だ。今回オープンするのは全て5つ星となっている。

 「これに関しては、5つ星なりの市場価格を維持する必要があると思っています。ただ、小売でいえば、マカオは中国のハイエンドをターゲットにしたので、ショッピングモール内の店は、クリスチャン・ディオール、グッチなど高級路線です。インスパイアでは中間層からハイエンド、国籍や年齢を問わずに楽しんでもらえるようにしたいので、高級ブランドに加え、中間の価格帯も用意することによって、より多くの人がアクセスできるようにします」

 マカオのIRとの違いで明らかなのは、10万6000平方メートルにおよぶ『ディスカバリーパーク』と呼ばれる巨大な公園存在だ。ジェンセンCMOも土地が小さいマカオでは、このサイズの公園の造成は不可能で、インスパイアを選んでもらえるような差別化を図れるとしている。

 「マカオ、マニラ、シンガポール、ラスベガスでもこういったものはないと思います。迷路があるので楽しんでもらったり、フラッと来てリラックスしてもらったり、屋外のフェスティバルも開催可能で3万人規模の音楽イベントもできます。桜が咲く通りもあるんですよ。家族で楽しんでいただける場所になっています」

 1万5000人を収容する「アリーナ」はどうか。マカオでは、香港、日本、米国の有名アーティストがコンサートを数多く開催してきた。日本でのK-POPの人気を考えると韓国人アーティストがコンサートをすれば、日本から訪れる人が加速しそうだ。

 「間違いなく、来場者を増加させるドライバーになるでしょう。先日はK-POPアワードである『メロンミュージックアワード』を開催し、1万2000人が集まりました。日本からも旅行代理店を通じて、多くの方にお越しいただきました。SHINeeのテミンのソロコンサートも開催したのですが、こちらも日本からのファンが来ていました」

 実は韓国では1万人以上の大規模会場が不足しているという現実がある。アリーナの完成はアーティスト側も歓迎しているはずだ。

 「K-POPという大きな市場があるのにもかかわらず、私も驚くほど(アリーナが)少ないのです。韓国は、スタジアム、体育館など別の目的で建設された会場ばかりで、コンサートを前提としていないため、導線、音響施設などはあまり考えられていないのが実情です。インスパイアのアリーナはそれらに対応した設計をしていますので、音響も素晴らしく、どの角度からの客席であってもアーティストが見やすくなっています」

 スポーツやeスポーツにも対応でき、24年3月には卓球の国際大会「WTTチャンピオンズ仁川」を開催する。

 「アリーナは(韓国におけるイベント施設関連の)『ゲームチェンジャー』のような存在になれると確信しています」とかなりの自信を持っている。

大阪のIRとはカニバらない

 30年に大阪のMGMが完成した後、一定数の日本人来場者が減る可能性は否定できない。それ以降の経営戦略をどのように描いているのか。

 「過去3、4年ですらアジア市場が大きく変化したので、6年後に大阪のIRが完成した後の状況を予測することは難しいです。今、開発をしている部分は、保有している土地のわずか10%にすぎません。これから長く続けていくための投資計画がありますし、その都度、変わり続ける市場に合わせた商品を開発していくことになるでしょう。30年頃には、IR市場自体も拡大していると思いますので、大阪との大きなカニバリゼーションは起きないでしょう」

 ジェンセンCMOは、IRについて30年以上の経験を持つ。韓国に渡る前は、マカオにあるMGMやクラウン・マカオで、マーケティングやカジノ運営を担うなどIRビジネスを知り尽くしている。「カニバリは起きない」との発言は、MGMのやり方を知っているからこそともいえるだろう。

 「韓国に行ってみたいと思う人へのゲートウェイのような存在になりたいですね」と話すジェンセンCMO。それには、日本人が行きたいと思わせる施設の充実やK-POPアーティストのコンサートを開催し、施設内で快適に過ごせるサービスを提供できるかが問われる。

 まだ開発をしていない「残り9割の土地」の活用方法も、インスパイア発展のカギになりそうだ。

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