きゃりーぱみゅぱみゅ・VERBALが語る「日本音楽ビジネス」の現在地 「世界は日本を求めている」終わり始めた“鎖国”(1/2 ページ)

» 2023年12月09日 06時38分 公開
[鬼頭勇大ITmedia]

 2023年6月、日本音楽にとって「快挙」といえる出来事があった。音楽ユニット・YOASOBIの楽曲『アイドル』が、米国ビルボード・グローバル・チャートの「Global Excl. U.S.」で首位を獲得したのだ。日本語楽曲としては初の首位であり、大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。

 同楽曲はテレビアニメ『【推しの子】』のオープニング主題歌としてリリース。首位を獲得したチャートは米国を除いたデータを集計したものだが、それでも「世界で愛された楽曲」といっても過言ではないだろう。

国内外で快進撃を見せたYOASOBIの『アイドル』(出所:Billboard JAPAN公式Webサイト)

 YOASOBIだけでなく、昨今は日本の楽曲が世界でヒットするケースが少しずつ増えてきた。22年には、藤井風さんの楽曲『死ぬのがいいわ』がSpotifyで23の国・地域で1位を獲得。また映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌としてAdoさんがリリースした『新時代』がApple Musicのデイリーチャート「トップ100:グローバル」で1位にランクインした。

 こうした流れの大きな転換点ともいえるのが、きゃりーぱみゅぱみゅさんの世界的なヒットだろう。11年のデビュー以降、国内での活動と並行して世界ツアーを展開。今では日本カルチャーの代名詞ともいえる「Kawaii」文化のアイコンとして活躍してきた。

 今回は10月25〜27日に開催した第20回「東京国際ミュージック・マーケット」から、きゃりーぱみゅぱみゅさんやVERBALさんらが登壇したセッションを基に、これから日本の音楽ビジネスが世界に出ていくためのヒントをまとめていく。

東京国際ミュージック・マーケットのセッションに登壇したきゃりーぱみゅぱみゅさん、VERBALさん、Kevin Nishimuraさん、アソビシステムの中川悠介代表取締役

鎖国はなぜ、解け始めたのか?

 古くは坂本九さんの『上を向いて歩こう(英語タイトル:SUKIYAKI)』が1963年にビルボード誌の「Hot 100」で週間1位を獲得したこともあった。とはいえ、日本の音楽業界は海外進出に苦戦してきた。そもそも国内の経済規模が大きいことから“鎖国”していても問題なかったといえるのが音楽業界だが、ここにきて何が変化し始めているのか。

 きゃりーぱみゅぱみゅさんの仕掛け人である、アソビシステムの中川悠介代表取締役はデビュー当時を「新聞・テレビ・雑誌・CDといった従来のメディアから、徐々に新たなものへと変化しつつあるタイミングでした」と振り返る。中川さんの言葉の通り、きゃりーぱみゅぱみゅさんの認知度や人気が世界に広がる大きなきっかけとなったのは、YouTubeで公開したミュージックビデオだった。

アソビシステムの中川悠介さん

 その後、デビューからわずか1年半ほどでワールドツアーを発表。当時はまだ国内で大成功を収めたアーティストがワールドツアーに打って出る風潮もあり、異例ともいえる速さだった。きゃりーぱみゅぱみゅさん自身も「まだ国内で頑張っている最中に『これから世界をまわるぞ』といわれたので、大変でした」と笑いながら振り返る。それでも世界13都市で開催した19公演が盛況に終わったのは、世界中の人がきゃりーぱみゅぱみゅという存在を、既にYouTubeによって知っていたことが大きいだろう。

 今や音楽がヒットする主要な舞台はストリーミングサービスだが、当時はまだ珍しかった。IFPI(国際レコード産業連盟)が発表した「Global Music Report 2023」によれば、11年の世界におけるストリーミングサービス関連売り上げは6億ドル(約883億円)。その後ストリーミングサービスは大きな成長を遂げ、17年にはCD・レコードなどの物理媒体を逆転した。直近の22年における売り上げは175億ドル(約2兆5777億円)にも及び、全体のうち67.0%を占める。

日本は独自の市場を形成してきた

 ストリーミングサービスが世界的に成長する一方で、日本では様相が異なる。日本レコード協会の統計「生産実績・音楽配信売上実績 過去10年間 合計」によると、22年の音楽関連の合計の売上高は約3073億円。そのうち「音楽配信」は約1050億円と、3分の1ほどにとどまる。

 今後、国際的なビジネスとして音楽を考える上では、こうした差を埋めることがポイントかと思いがちだが、セッションの内容からは異なる課題も浮かび上がる。

 例えば、音楽グループ「m-flo」やヒップホップグループ「TERIYAKI BOYZ」の一員として活動しながら、音楽プロデューサーやファッションブランドも手掛けるVERBALさんは「カルチャーと音楽との融合」を指摘する。

 VERBALさんによると、米国や欧州ではカルチャーと音楽が密接に関わっている。両者の文脈が近しく、ファッションブランドがアーティストとコラボした際などは売り上げへの貢献度も高い。こうした融合が、日本ではまだ強くないのだという。逆にいえば、きゃりーぱみゅぱみゅさんであれば「Kawaii」文化、YOASOBIやAdoさんでいえば「アニメ」との結び付きがあったからこそ、世界でヒットしたといえるのかもしれない。

演者であるとともにビジネスの場でも活躍するVERBALさん

 ヒップホップユニット「ファーイースト・ムーヴメント」のメンバーとして活躍し、現在はアジアのコンテンツプロデュースなどにも注力しているKevin Nishimuraさんも、カルチャーとの結び付きをポイントに挙げた。

 「特に米国では、アイデンティティとしてのカルチャーが重視されます。各アーティストは、自身のルーツとして出身地の音楽を持ち込み、受け入れられてきました。私自身も自分のルーツを重視しながら、カルチャーの中心に音楽の作り手として存在することを意識してきましたし、そこからコミュニティーが生まれ、全国や世界に広げていくことができました」(Kevin Nishimuraさん)

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