音楽配信サービスや音楽業界向けソリューションを手掛けるレコチョクが、生成AIの積極的な活用を進めている。音楽市場への新たな価値提供の実現が狙いだ。
6月30日には「with AI プロジェクト」を発足。「社内におけるプログラミング開発による業務生産性の向上」と「自社で展開している音楽業界向けソリューションビジネスにおける生成AI活用」の2つの目的を掲げたものだ。8月より、日本マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を採用。社内でChatGPTが利用できる環境として「RecoChat with AI」を構築し、運用を開始した。
レコチョクは「音楽業界のIT部門」を自称して、国内ではいち早い音楽配信事業や、デジタルによるアーティスト支援を展開してきた。音楽業界は生成AIでどのように変わる可能性があるのか。レコチョク執行役員で、次世代ビジネス推進部の部長も兼任する松嶋陽太さんと、同エンジニアリングマネージャーの横田直也さんに聞いた。
──生成AIに着目したきっかけはなんだったのでしょうか。
松嶋: 業務にAIを活用する話は昔から議論をしてきました。例えば、サービス利用者への楽曲のレコメンドなどに使えるかという話はありました。ただ逆に言うと、閉ざされた領域でのAI活用しか考えてこなかったわけです。
考え方が変わった一つのきっかけが、2022年8月に登場したAIによる画像生成サービス「Stable Diffusion」の登場ですね。これに僕が感銘を受けて、ビジネスに活用できないか個人で模索していました。ただ、この時もまだ発展途上だなという感覚がありました。転機となったのが、22年11月のChatGPTの登場ですね。これで業務にも活用できると確信しました。
──ChatGPTでは具体的にどう業務に活用できると思ったのでしょうか。
松嶋: まず会社のサービスを考える際の壁打ち役として使っていたのですが、思った以上にしっかりした回答があって「これはすごいな」と思いました。
業務に使えそうだと思ったのが、プログラミングですね。特にGPT4が出てきてからが衝撃でした。僕自身はもともとプログラマーだったのですが、ここ10年くらいは業務から離れてしまっています。ですから今、機械学習やデータ分析で主流のプログラム言語であるPython(パイソン)は全然いじったことがなかったのですが、こちらから質問を投げるだけでChatGPTがそれをキャッチアップして、Pythonのコードを書いてしまうんですね。その時「これは想像を超えたレベルになっているな」と直感的に確信しました。
──執行役員として、どのように会社組織に生成AIを取り入れようと思いましたか。
松嶋: 最初はほそぼそと社内で実験的に導入しようかと思ったのですが、想像以上に生成AIの進化が早いんですよね。そのやり方だと潮流から取り残される感覚があったので、もうこれは全社の取り組みにしないと駄目だなと思い、with AI プロジェクトを立ち上げました。
──with AI プロジェクト立ち上げ以前から、AI活用を議論していたとのことです。どんな形で模索していたのでしょうか。
横田: はじめは社内のどこで、どんな課題があるかをヒアリングしました。そこで出てきたアイデアの一つがカスタマーサービスです。お客さまからの問い合わせにAIを活用するところから取り組んでいきました。
また、レコチョクでは17年にAWS(Amazon Web Services)へサービスシステムを完全移行するなど全社でクラウド化、業務のDX化を進めていて、社員はSaaS(Software as a Service)を使って業務をしています。普段の業務では2〜3つくらいのSaaSを併用して作業しているのですが、この一つ一つのSaaSが独立していて横でつながっていないんですね。そのため作業習熟や業務に時間がかかっていました。この業務効率化のために生成AIにタスクを自動化するためのスクリプトを生成してもらって、全部の処理をボタン一つでやれるように模索していました。
松嶋: エンジニアでない人でもAIを使い、Pythonで効率化できる部分が革新的だと思いました。プログラム言語を一から覚えるのは大変なので、今まではわれわれがプログラムを作っていたわけです。ですがChatGPTを使うと、エンジニア以外の人でも作り方を教えるだけで、誰でもできてしまいます。そうすればその人のスキルも格段に上がるので、そういう人材を増やしていけば、全体の生産性が上がると思っています。
ただ、会社全体でAIに取り組んでいかないと生産性は上がりませんから、今は全社で活用を進めています。
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