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日立社長が「現場作業者の働き方改革」に注目するワケ “4つの人間力”を拡張せよ(1/2 ページ)

» 2024年09月20日 15時05分 公開

 日立製作所が、現場作業者の働き方改革に注力している。

 同社が東京国際フォーラムで開催した「Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN」の9月4日の基調講演に、小島啓二社長が登壇。人口減社会を迎え、今後いかにして生成AIをはじめとするテクノロジーによって「人手不足」を解決するかを語った。

 イベントでは講演の他、セッションや日立グループ各社による展示の中で、さまざまな業界の現場を支える「フロントラインワーカー」(現場作業者)の働き方をテーマに、テクノロジーによる変革の可能性を提示している。

 「データとテクノロジーの力で、フロントラインワーカーが輝く現場を実現する」「現場の人手不足というグローバルな社会課題を解決し、再び日本を成長の軌道に乗せられると確信をしている」と話す小島社長の講演内容をお届けする。

日立製作所の小島啓二社長(撮影:河嶌太郎)

日立社長「現場作業は極めて高度」 テクノロジーは何ができる?

 「日立はデータとテクノロジーを活用して、顧客とともに社会課題を解決する社会イノベーション事業に注力しています。私たちは健全な地球環境や人々の幸せ、そして経済成長の3つを同時に達成する持続的な経済成長の実現を目指しています」

 講演の冒頭、小島社長はこう切り出した。いま日本では、過去にない勢いで少子高齢化が進んでいる。そしてその影響によって多くの業界で人手不足が起こっている。2050年までには、実に2000万人の労働人口が減少するという見通しもある。特にものづくりなどの現場においては、若手社員の採用が難しくなり、熟練社員の退職によって、技術伝承が必要な事業の継続が困難になる企業も出てきている。

 これは、日本だけでなく世界中の多くの国々でも共通している問題だ。現場の人手不足は、まさにグローバルな社会課題の一つとなっている。

 しかし小島社長は「データとテクノロジーで現場にイノベーションを起こすことによって、必ずやこの困難を乗り越えられると信じている」と語る。

 「日本の素晴らしさは現場の力、まさに『現場力』に根ざしていると考えています。刀鍛冶の精錬や鍛造といったような、古来の現場の技術が日本にはあり、これが明治維新以降の近代化でのものづくりの支えとなりました。多くの日本企業が優れたものづくりの力を発揮し、日本製品の極めて高い品質を支えてきました。日立自身もこうした企業の一つです」

 10分以内で新幹線車内をきれいにする清掃サービス、そしておもてなしの精神で利用者を迎える旅館業などのサービスも日本の強みだと、小島社長は語る。この高い製品とサービスを支えているのが、現場作業者であるフロントラインワーカーだ。

 「この“現場の力”こそが、日本が世界に誇れる強みだと言えます。しかし、そうした現場がいま人手不足の危機にひんしています。データとテクノロジーでこの問題にしっかりと取り組み、解決することが求められていると私は考えています」(小島社長)

小島社長は「フロントラインワーカーの仕事は心身への負荷も高く、極めて高度な活動」と話す

 フロントラインワーカーの例として、小島社長は製造工場の組み立て担当者や、物流を担うトラックドライバー、医療現場を支える看護師などを挙げた。

 「フロントラインワーカーの方々は、絶えず変化する現場の環境に合わせて仕事をしています。頭脳と肉体をリアルタイムで統合的に活用し、環境変化に柔軟に対応しながら目標を達成する。フロントラインワーカーの仕事は心身への負荷も高く、極めて高度な活動だといえます」(小島社長)

 そのため、フロントラインワーカーの仕事をそのままデジタルやロボットによって自動化して置き換えることは、とても難しく非現実的だ。「しかしテクノロジーによって、人間が使う一つ一つの力を拡張することは可能だ」と小島社長は指摘する。

 小島社長によると、フロントラインワーカーは「思考力」「コミュニケーション力」「五感力」「作業力」の4つの人間力を発揮しているという。「思考力」は、現場で起きるさまざまな変化や課題に対し、臨機応変に解決策を導き出す力。「コミュニケーション力」は、仲間と情報を共有し、必要な合意形成を図る力。「五感力」は、視覚、聴覚、触覚などを使って、周囲の様子を感じとる力。そして「作業力」は、自らの身体や道具を使って、仕事を進める力を指す。

 フロントラインワーカーは現場で、この4つの力を同時に発揮しながら、仕事に取り組んでいくという。

フロントラインワーカーは「思考力」「コミュニケーション力」「五感力」「作業力」の4つの人間力を発揮している

 例えば製造現場で機械のトラブルが発生した際には、フロントラインワーカーは、異音を聞いたりエラー表示を見たりすることで、機械の異変に気付く。過去の経験に基づいて、緊急に対策を考え、仲間と相談して指示を出す。そしてラインを停止し、機械の部品交換作業スケジュールの組み換えを進めることによって、現場全体で復旧の対策をしていく。

 この4つの人間力を、どのようにデータとテクノロジーによって拡張できるのか。まず「思考力」においては今後、生成AIは、文字だけでなく図面、映像、音声といったさまざまなタイプの情報を学習できるようになるという。

 「作業記録やノウハウを学習させた現場独自の生成AIを活用することによって、作業者はさまざまな情報を瞬時に引き出せるようになります。思考力の拡張によって、現場でスムーズな判断が可能になるわけです」(小島社長)

 次に「コミュニケーション力」では、今後5Gや6Gの高速通信環境を現場に整備していくことで、高精細な映像や資料をリアルタイムにチームで共有できるようになるという。コミュニケーション力の拡張によって、離れた場所にいるフロントラインワーカー同士が一刻を争う状況の中でも密に情報を共有し、連携し対応することが可能になる。

 「五感力」では、今後センシングの技術あるいはVRを活用することによって、現場空間を共有しモニタリングもさらに効果的にできるようになるという。

 「現場の音や映像を基にして、異常あるいはリスクを検知する。人の生体情報や作業負荷を常にモニタリングして、作業者の健康状態もしっかりチェックする。こうした作業者の五感力の拡張で、事故を未然に防いで現場の安全性品質を大きく高められるのです」(小島社長)

 最後に「作業力」では、アシストデバイス(編注:力仕事をサポートする装置)やドローンといった技術を使うことで、体への負担を減らし、高い場所や広い範囲の点検を安全かつ迅速にできるようになるという。小島社長は「今後、現場の安全性と作業効率を大きく向上させるロボティクスの技術がさらに進化していく」と確信する。

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