テクノベート経営研究所(TechMaRI)副所長。日本発デカコーン創出のためのリサーチを行う。
グロービス経営大学院の創造エコシステム構築や創造系科目開発・リサーチをリードする。
代表室ベンチャー・サポート・チームリーダーとしてユニコーンを100社輩出することをビジョンとしたグロービスのアクセラレーションプログラム「G-STARTUP」を事務局長として立ち上げた。チームでは、グロービスの戦略的な投資プログラムを担い、約50社のベンチャーに投資を実施。民間公益活動向け助成金プログラムの審査員も務めた。
東京大学法学部卒業。
世界には「デカコーン」と呼ばれるスタートアップが存在する。評価額が100億ドル(約1兆5000億円)以上の未上場テック企業を指す。
こうしたデカコーンは、日本の社会生活や経済活動にも大きな影響を与え、雇用創出につながる可能性を持つ存在だ。
近年、日本でもその影響が無視できなくなったデカコーンに、米OpenAIがある。2015年創業で、2022年11月に対話型AI「ChatGPT」を公開し、瞬く間に世間の耳目を集めた会社だ。マイクロソフトから、2019年に10億ドル、続いて2023年に100億ドルの巨額調達を決め、現在の評価額は800億ドル(日本円で約12兆円)だ。
2023年には、同社のCEOサム・アルトマン氏は岸田文雄総理大臣と面会し、日本におけるプレゼンス強化を述べた。さらに、2024年には日本に拠点を設け、日本語に特化したモデルを発表した。ChatGPTは、今後とも日本に大きな影響を及ぼすだろう。
生成AI領域以外にもデカコーンは存在する。例えば、2015年に国際送金や為替業務から始まった英フィンテック企業Revolutは日本を含む全世界38カ国で3800万人のユーザーを持ち、2023年売上高22億ドルで前年度比95%成長、5億ドルの利益を上げ、従業員数は約1万人にのぼる(※1)。ユーザーに対して貯蓄や支出管理、暗号資産管理など多様な金融サービスを提供する、いわゆる「スーパーアプリ」だ。2021年に、ソフトバンクビジョンファンドやTiger Globalら世界的な投資家から8億ドルの資金調達を行い、評価額は、330億ドルとなった。
(※1)Revolut 2023年度年次報告書より
米国調査会社CBインサイトによると、世界のデカコーンは52社だ。米国で最も多く33社、中国には10社、英国に3社あるが、日本には存在しない。最も評価額が高い会社は、動画メディアTiktokを運営するByteDanceで2250億ドルだ(※2)。
(※2)CB Insightsを基に筆者調査、2024年7月25日
| 設立年 | 所在国 | 評価額(bil $) | 事業内容や特徴 | |
|---|---|---|---|---|
| ByteDance | 2012 | 中国 | 225 | 動画共有サービスTiktok運営 |
| SpaceX | 2002 | 米国 | 150 | 宇宙輸送サービス、衛星インターネットサービス提供 |
| OpenAI | 2015 | 米国 | 80 | 生成AI技術の研究開発、マイクロソフトと提携 |
| Stripe | 2010 | 米国 | 70 | オンライン決済 |
| SHEIN | 2008 | シンガポール | 66 | ファストファッションブランド |
| 評価額上位5社(出典:CB Insightsを参照し、筆者作成) | ||||
なぜ、日本にはデカコーンが存在しないのか。今後、デカコーンが生まれるためには、何が必要なのか。
第一線で活躍する経営者、政治家・官僚、学者などが集った2024年G1サミット(一般社団法人G1が2009年から毎年開催、代表理事:堀義人)では、以下のようなことが議論された。
日本でも、デカコーン輩出が社会的なテーマとして注目されるようになった。経団連は、2027年までにデカコーン企業2社の輩出を目指すことを掲げている。
政府、ベンチャーキャピタルなど、さまざまなアクターが一体となり、スタートアップが成長していける環境をつくることが重要だ。
グロービス経営大学院の学内シンクタンク「テクノベート経営研究所」では、日本発デカコーン輩出を目指すリサーチを行っている。今回は、デカコーンを目指すスタートアップの経営に参考になると考え、マネーフォワードとフリーに着目してリサーチを行った。
その理由は、マネーフォワードとフリーはどちらも、デカコーンへの成長を目指す姿勢が顕著だからだ。両社は、会計ソフトウェアという保守的な市場にクラウド技術を持ち込むという、30年ぶりのイノベーションを実現させながら、人事労務やフィンテックに事業領域を拡張してきた。そのために、積極的な投資を行い、2023年までに両社とも累積600億円以上の資金調達も実現させている。
この連載では、両社の成長戦略や事業戦略やビジネスモデルの特徴を捉えながら、エコシステム構築やIRの観点も含め、デカコーンを目指すために重要な戦略の仮説を示していきたい。
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