マーケティング・シンカ論

赤字からV字回復の「VAIO」 短期間で新ビジネスを成功させたワケグロービスが解説! 事例から読み解くマーケ最前線(1/3 ページ)

» 2023年10月19日 07時30分 公開
[柳田佳孝ITmedia]

 テクノロジーによってビジネスの在り方が変わっていく「テクノベート(テクノロジー×イノベーション)」が進行している現代。特にマーケティング領域は、デジタルツールの発展によって大きな影響を受けています。

 この連載では、デジタルマーケティングにおいて「分かったつもり」ではなく、今必ず理解しておきたいキーワードを厳選し、関連事例を紹介しながらその実践におけるポイントを考えていきます。

 今回は「CRA・MA・SFAを活用した顧客体験価値の向上」をテーマに、ノートPCブランドVAIOが、BtoBへの転換によって赤字からV字回復できた勝因を分析します。

 解説を担当するのは「グロービス経営大学院」教員でマーケティングやビジネス・アナリティクス(定量分析)の講座に登壇する柳田佳孝氏。

筆者プロフィール:柳田佳孝

慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業

グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了

学位:MBA

株式会社ブリヂストンにて世界最大の超大型タイヤ生産技術開発に従事。その後、株式会社ワークスアプリケーションズでAI・ビッグデータほか最先端IT技術の研究開発に従事した後、株式会社グロービスに入社。

現在はグロービス・グループのディレクターとして、グロービス経営大学院の経営戦略・マーケティング戦略の立案・実行、CRM・SFA・MA・分析基盤・基幹系業務システムの構築・運用をはじめとしたDX推進やレベニューオペレーション(RevOps)を中心に、学校経営全般に携わっている。


マーケを語るうえで外せない3つのツール

 顧客体験価値の向上は、現代のビジネス環境において企業の競争力を左右する重要な要素となっています。顧客体験価値を高めていくために、企業が顧客とよりよい関係性を築く上で必須となるのが「CRM」(Customer Relationship Management)、「SFA」(Sales Force Automation)、「MA」(Marketing Automation)という3つのツールです。

 本稿では、CRM・SFA・MAそれぞれの役割と、これらを連携させることで実現できる顧客体験価値の向上について解説します。まずはCRM・SFA・MAという3つの用語、それぞれの定義からおさえていきましょう。

CRM(Customer Relationship Management)とは

 CRMとは、顧客に関する情報を一元管理し、顧客との関係を継続的に築き上げ、その結果として売り上げや利益、さらには企業価値を向上させるためのシステムおよびプロセスです。顧客データ、購買履歴、問い合わせ履歴などが統合され、企業内の関係各所が同じ情報にアクセスできるようになります。

 これにより、顧客に対して個別化されたサービスやコミュニケーションを提供することが可能となり、顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の最大化も実現しやすくなります。

SFA(Sales Force Automation)とは

 SFAとは営業を支援するためのシステムであり、営業活動の効率化や成果の最大化を目指します。SFAは、営業プロセスの管理、見込み客の追跡、営業活動のスケジュール管理、見積書や注文書の作成など、営業活動全般の効率向上を支援します。

MA(Marketing Automation)とは

 MAとはマーケティング活動を効果的に実施するためのシステムです。顧客の行動や興味に基づきパーソナライズされたメッセージの送信、自動化されたキャンペーンの実行、リードのスコアリングやナーチャリング(育成)などのプロセスを支援することで、マーケティングの効果・効率を最大化します。

 この説明だけでは3つのツールの違いや関係性が理解しづらい、という方もいらっしゃるでしょう。そこで、前回の記事でも出てきたカスタマージャーニーに沿って、それぞれのツールを使う主な目的と役割分担を下図のように整理しました。

マーケ CRM・SFA・MAの役割分担概要(グロービス作成)※本来、カスタマージャーニーは顧客の具体的なイメージを持ちながら、もう少し具体的な粒度で描くものです。一方、今回はCRM・SFA・MAの役割分担について理解していただくことと、読者にはBtoC、BtoBどちらの担当もいるであろうことから、あえて上記のような粒度で描いています。

 冒頭のCRM・SFA・MAそれぞれの説明から、3者の関係性は「CRM>SFA・MA」というイメージを持たれた方もいるかもしれませんが、まさにその通りです。CRMは見込み客から熱狂的なファンに至るまで、全ての顧客管理の基盤となります。

 MAやSFAを通して、CRMに顧客データが蓄積されます。そしてその顧客データを活用しながら、MAでリード獲得・育成、その後SFAで商談〜成約までの営業活動が行われます。

 このようにCRM・SFA・MAの連携を通して一元的な顧客管理とマーケティング・営業活動への展開を行うと、顧客体験の向上とLTVの最大化を目指すことができるのです。

 その成功例として、VAIOの事例をご紹介しましょう。

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