テクノロジーによってビジネスの在り方が変わっていく、テクノベート(テクノロジー×イノベーション)が進行している現代。特にマーケティング領域は、デジタルツールの発展によって大きな影響を受けています。
この連載では、デジタルマーケティングにおいて「分かったつもり」ではなく、今必ず理解しておきたいキーワードを厳選し、関連事例を紹介しながらその実践におけるポイントを考えていきます。
今回は「顧客体験価値」をテーマに、ビジネスパーソンの教育に携わるビジネススクール「グロービス経営大学院」教員の下道陽平が解説します。
筑波大学比較文化学類卒業。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了。
米系コンサルティングファームにて通信・メディア・テクノロジー業界を中心とした経営コンサルタントとして活動した後、母校であるグロービスに参画。EdTech新規事業部門のディレクター/経営メンバーとして「GLOBIS学び放題BtoC事業」「ナノ単科(nano-MBA)事業」「DIGITAL GLOBIS(eMBA2.0)事業」などを統括。現在は、統合マーケティング部門において、コーポレート及び全社BtoC事業のブランド・マーケティング戦略策定に従事。
「モノ」から「コト」「トキ」、更には「イミ」……と、顧客の購買対象の主流が移っています。形には残らなくとも、心に残る消費活動であるそれらに関連して、耳にするのが「顧客体験価値」というキーワードです。
顧客体験価値とは、ある商品・サービス自体の金銭的・物質的価値ではなく、それを実際に利用した際の心理的、感情的な価値を指します。従来型のマーケティングは、商品を購入する瞬間をゴールとし、顧客にとっての「実利的な価値」を追求するものでした。しかし現在は、購買前後、商材によっては再購入するまでの「体験的な価値」を重視する流れとなっているのです。
ここで、顧客体験の向上を目指し改革に取り組み、成功したスポーツアパレルメーカー、ナイキの事例を紹介しましょう。
ナイキをはじめとしたBtoCメーカーはもともと、一部の直営店を除き販売に卸業者を介しており、基本的に自身では販路を持っていませんでした。つまり、自社では直接の顧客接点を持っておらず、エンドユーザーの購買体験を詳しく理解するどころか、購買の瞬間に立ち会うことすらできていなかったのです。
しかしEC化により、各メーカーはダイレクトにエンドユーザーに買ってもらう場(D2C:Direct to Consumer)を作れるようになりました。ナイキも販路を一気にD2C重視へとシフトさせ、ブランドの売上高全体に占めるD2Cの割合は、2011年の16%から10年で39%まで高まっています。
ナイキが販路のEC化と共に取り組んだのが、アプリを通じた関係性構築です。ナイキのアプリが提供しているのは、オンラインで商品を購入できる機能だけではありません。ユーザーは、自身の運動能力のレベルを測定したり、自分にあったトレーニングメニューを調べたりすることができます。
また、ランニングアプリであれば走行距離を友達と競い合うなど、特定の行動を達成することで獲得できるトロフィー機能など、ゲーミフィケーション(ゲーム化)の工夫が施されており、購入自体が楽しい体験になるように作られています。
このアプリを通じてナイキは、リピート顧客の獲得に成功しました。まさに、顧客の生活・体験の中に入り込み、ブランドとの関係を醸成した例と言えるでしょう。
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