ナイキの成功事例から学ぶ 「顧客体験価値」を最大化するための3つのポイントグロービスが解説! 事例から読み解くマーケ最前線(2/3 ページ)

» 2023年08月29日 08時00分 公開
[下道陽平ITmedia]

「顧客体験価値」が重要となった3つの理由

 昨今「顧客体験価値」が重視されるようになった背景には、3つの理由があります。

 まず1つ目は「顧客の商品・サービスへのタッチポイントが広がってきた」という点です。以前の購買行動は、主にマスメディアを通じた興味喚起→店舗で購入、というシンプルな流れを理解するのみで足りていました。

 その後スマホ、SNSでの口コミ文化などの普及も相まって、顧客はいつでもどこでも商品やサービスを調べることが可能になりました。現代では、企業が用意したタッチポイント以外でも、商品やサービス、そのブランド自体への印象が形成されていくようになっています。

 下記はそういった現代の購買モデルとしてGoogleが提唱したZMOT(Zero Moment of Truth)という概念です。店頭での購入を決める瞬間であるFMOT(First Moment of Truth)、商品を実際に利用する瞬間となるSMOT(Second Moment of Truth)というタッチポイントの前に、ZMOT(Zero Moment of Truth)、つまり店舗に行く前に人は情報収集を行っている(その情報収集が他の方のSMOTにより生み出された声である可能性がある)ことを示す考え方です。

マーケ Googleの資料「Winning the Zero Moment of Truth eBook」を参照し、グロービス作成

 こうして顧客の購買行動が一層複雑になりました。これに応じるために、顧客の体験全体を考慮したマーケティングが求められているのです。

 2つ目は「多くの商品・サービスにおいて、市場が成熟期に入っている」という点です。

マーケ GLOBIS学び放題「製品ライフサイクル」より

 市場が成熟期に入ると、導入期などには効いていた、商品・サービスの「機能」、あるいはそれを使うことで気持ちが満たされるなどの「情緒」での差別化が厳しくなっていきます。そこで「体験」という別の軸で差別化する方向へとシフトしているのです。

 最後3つ目は「ユーザーデータの定量的な把握が容易になっている」ということです。

 ここまでを読んで、企業にとっては購買行動を自社の施策では制御しえない、難しい時代だと思うかもしれません。しかし、以前は見えなかったユーザーの行動を、CRM(顧客管理)ツールなども使い定量的に把握することが可能になったという点は、サービス・製品の提供側にとってプラスです。特に、既に顧客情報が存在し、再購入を意図したコミュニケーションも実行しやすい既存顧客へはアプローチがしやすく、注目が集まります。

 上記3つを踏まえると、いまマーケターに必要とされているのは「顧客一人ひとりの生活の至るところ、ブランドに関する体験の全てに、関係醸成のチャンスがある」と考え、積極的にそのチャンスを生かすことです。

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