ナイキの成功事例から学ぶ 「顧客体験価値」を最大化するための3つのポイントグロービスが解説! 事例から読み解くマーケ最前線(3/3 ページ)

» 2023年08月29日 08時00分 公開
[下道陽平ITmedia]
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マーケ戦略を立案する上で重要な3つのポイント

 では最後に、顧客体験を重視したマーケティングを実践する上で重要な3つのポイントを紹介します。

 1つ目は「説得力あるペルソナを作り、組織に浸透させることができるか」です。

 顧客体験を押さえ、打つべき施策とそのタイミングを考え抜き、やり切れている企業はあまり多くないかもしれません。多くの場合「ペルソナ」に欠けがあるということが、その理由の1つとなっています。

 よくあるのが、ペルソナ自体は設定していても「頭の中のイメージだけで作っている」という事態です。読者の中にも「接客経験の豊富なあの人にヒアリングしてペルソナを作ればいいか」と考えたことがある方はいるのではないでしょうか。

 この手法で設定されたペルソナも、なかなかいいところを突いていることも多いものです。しかし、問題は説得力に欠け、組織浸透が難しいことです。

 顧客体験全体を俯瞰したマーケティング施策の実践には、マーケティング部門、あるいは事業部を超えて「自社の顧客はこんな人」というペルソナを浸透させ、組織として同じ方を向く必要があります。しかし、個人のイメージだけで作られたペルソナでは、ともすれば「あの人の思い込みではないか」といった話にもなりかねません。

 客観的な根拠から論理的に導かれたペルソナを提示できれば、組織全体として一歩を踏み出しやすくなります。CRMシステムのデータや、複数の関係者へのデプスインタビューなどを駆使し、しっかりエネルギーを使って、組織内部としても外部からみても説得力ある方法でペルソナを作り上げることが大切です。

 2つ目は「カスタマージャーニーマップを活用し、顧客の心が動くポイントを見極められるか」です。顧客体験を重視する中で、ペルソナのほかに活用できるのがカスタマージャーニーマップです。これは商品・サービスの購買に至る行動全般を指すカスタマージャーニーを時系列で整理していくツールで、体験設計の共通理解に大変便利です。

 しかし、どこまでも細かに考え込めてしまうツールだからこそ、完璧なマップを作ることが目的でないことは意識しましょう。カスタマージャーニーマップの要点は「顧客の心が動くポイントを把握する」、そして「それに関わるポイントを作り込む」の2つです。そのためにも、前述のようにインタビューを重ね、共通して浮かび上がってくるポイントを探り、見極めることが重要でしょう。

 そして3つ目は「全てのタッチポイントで一貫性を持ったコミュニケーションが取れるか」です。

 マーケティング施策と一言で言っても、リスティング広告やディスプレイ広告への出稿、SNSやオウンドメディアの運営まで、さまざまです。顧客体験重視のマーケティングでは、それぞれの施策において、複数のタッチポイントで顧客とコミュニケーションを取っていくことになります。その時に必要なのが一貫性です。

 商品やサービスへの印象は「ブランドパーソナリティ」という言葉の通り、その企業やブランドの「人格」として捉えられます。私たちが普段の生活において、SNSとリアルで態度が大きく違う人や、場によって言動を大きく変える人に不信感を持ってしまうように、毎回のタッチポイントでその都度別人のような印象を与える企業やブランドとは、顧客は関係を構築しづらいものです。また、共感されるパーソナリティを感じ取ってもらえるかどうかも、もちろん重要です。

 ここまで、顧客体験価値とは何か、そしてその実践にむけた解説をしてきました。さまざまポイントを挙げましたが、最終的に重要になるのは、これらを踏まえて「あくなき改善を回し続けられるか」です。

 顧客体験を考えていく中では、どれだけ調査し、どれだけその領域に知見を持つ人材に頼ったとしても、そもそも立てた仮説が間違っていた、という可能性はあり続けます。また、市場のステージが変わっていけば、自然と顧客も変わっていき、一度つかんだペルソナも修正が必要になる場面がやってきます。

 戦略は一度作って終わりではなく、環境に応じて作り直し続ける必要があります。その変化に適応しながら、あらゆるタッチポイントから顧客エンゲージメントを高める取り組みが重要なのです。

参考文献

『テクノベートMBA 基本キーワード70』グロービス(著), 嶋田 毅(著)

『ナイキ 最強のDX戦略』祥伝社、白土孝(著)

日本経済新聞「米ナイキがD2Cシフト メタバースから需要予測まで


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