マーケティング・シンカ論

AIが東大合格への「最短ルート」を導き出す 戦い方が変わる「受験の今」東進ハイスクールの挑戦(1/2 ページ)

» 2023年08月28日 07時30分 公開
[渡辺まりかITmedia]

 受験生であれば、誰もが効率の良い方法で勉強し、合格を勝ち取りたいと考えるだろう。そんな理想を、予備校大手の「東進ハイスクール」を運営するナガセ(東京都武蔵野市)が実現しようとしている。AIを活用して志望校合格に向けた最短ルートを逆算し、学びの内容や勉強スケジュールを提案しているのだ。

 どのようにAIを活用して「最速合格の方法」を導き出しているのだろうか。ナガセ 専務取締役 コンテンツ本部長 渋川哲矢氏に聞いた。

(ゲッティイメージズ)

AIが「合格までの最短ルート」を逆算 方法は?

 志望校に合格するには、合格に必要な最低点を取らなくてはいけない。その差分をいかに埋めていくかが重要となる。

 そのために生徒は、克服すべき苦手分野を把握することに加え、志望校での出題傾向を知ることが必要となる。東進ハイスクールの完全個別プログラム「志望校別単元ジャンル演習」は、AIを活用してその両方を解決する。

AIを活用した演習プログラムのイメージ AIを活用した演習プログラムのイメージ。生徒ごとの学習データと過去のデータを組み合わせて、取り組むべき最適な演習を提供する(提供:ナガセ、以下同)

 志望校別単元ジャンル演習は、高校3年生で導入する。

 5月末までに受験科目を一通り学習し終えた生徒は、8月末までに共通テスト対策演習、10年分の国公立二次、私大入試の過去問演習に取り組む。ここでの学習データを、生徒の学習レベル、苦手分野の分析に活用する。

 各生徒が9月から取り組む志望校別単元ジャンル演習では、志望校の入試問題で出題されやすいにもかかわらず、得点が取れていない分野の問題を集中的に出題する。

 AIがデータを元に、演習問題「必勝必達演習セット」を提案する。60単元ほど用意するが、AIが優先順位を付けて提案するため、生徒は効率よく苦手を克服し、最短ルートで得点アップを図ることが可能。優先順位は「その生徒が苦手としている度合い」×「志望校での出題頻度」によって判断している。

 「受験生の皆さんは時間がないので、無駄な学習に時間をかけるのはもったいないです。そのためには、生徒一人一人が本当にやらなくてはいけない『志望校の出題傾向が高くて、自分が苦手な問題』に絞り、時間効率を上げる必要があります」(渋川氏)

 1単元には3〜4問程度の演習問題が用意されてる。まずは各生徒のレベルに合わせた難易度の問題を出題。だんだんレベルアップし、志望校合格に必要な難易度の問題も解けるよう、調整しながら問題を提供している。

AIを活用した演習プログラムのイメージ スケジュールイメージ

 同社には、模試や教科書の演習問題、101大学600学部の過去問など130万問のデータベースが存在する。志望校別単元ジャンル演習では、そこからレベル別、単元別に、厳選した約30万問を活用している。

 問題は、科目や単元、大学ごとの出題傾向で分類されているほか、それぞれに12のレベルが設定されている。例えば、現状とある分野でレベル4までしか解けない生徒がいたとする。その生徒の志望校ではレベル7の問題が出る傾向が高い場合、最終的にレベル7までを完璧にマスターすれば良い。必要な点差を埋めるという“最短ルート”をとることで、志望校合格に近付けるのだ。

AI演習の特徴 AI演習では、それまでの生徒の学習データを把握した上で、生徒の苦手を克服するための演習問題セットが用意される。優先順位の高いものから取り組むことで、苦手分野を克服し、得点アップが図れる

 11月から受験までには「第一志望校対策演習」を提供し、各校特有の出題傾向への対策を行う。

 例えば、国立大学では記述・論述問題が、私立大学では客観式問題が多い。論述であっても、大学によって求められる文字数が異なる。科目という縦軸に、文化や経済といった時代背景という横軸を織り交ぜて回答することが求められることもある。

 東京大学(以下、東大)であれば記述形式の問題が多い。そのため、演習問題もその生徒の苦手分野であり、志望校の出題形式に合った記述式の問題が多く出題される。

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