同社がAIを活用しようと考えた理由の一つは、苦手を克服する大変さを嘆く生徒が多かったからだ。AI分析により苦手分野の把握が容易になり、短時間でそれを克服することが可能になる。
もう一つは、アナログから抜け出せない教育業界の変革だ。講師たちは自分の経験を元に指導するが、それでは講師ごとにばらつきが生じてしまう。これまで蓄積してきた延べ100万人の東進生の学習データを活用すれば、場所や指導者を問わず、誰もが同じように最短で合格を目指せると考えた。
しかし、AIの活用によって、講師と生徒とのコミュニケーションがおろそかになることはないのだろうか……。渋川氏は「それはありません」と断言する。
「まず、生徒さんは入館すると、カウンター内にいる担任講師とあいさつをしつつ、今日の予定などを含めた会話をします。担任講師は、管理画面でリアルタイムに各生徒の学習の進捗状況を確認できます。帰宅する生徒さんに『どこまで進めたのか』と声がけし、努力をほめたり、激励したりしてモチベーションをアップさせています。むしろ、リアルタイムで学習状況が分かるからこそ、ほめるタイミングを図れ、密なコミュニケーションにつながっているのです」(渋川氏)
同社では現在、AIを活用して志望校別単元ジャンル演習と第一志望校対策演習の2つのサービスを提供している。各サービス導入有無による合格率への影響については非公開としたが、一定の成果は出ているようだ。
渋川氏は「AI演習としての真価を発揮するのは、最もレベルの高いとされている東大、京大などの受験で結果を出してこそ」と、満足するには早いという考えを示した。
11月には東大、京大、東工大、一橋といった難関校専用の特別演習を導入する。渋川氏は「これにより、さらに合格率を高めていきたいです」と今後の展望を語った。
「難関大学は複数の分野を融合した、より複雑な問題の出題が多い傾向があります。このように融合している問題の苦手を克服するために、各分野の復習をする演習や、志望校の過去問のみを集めた演習を用意することで、東大であれば東大特化型の特別演習を提供しています」
「AI活用は、もちろん多くの人に東大をはじめとした志望校に合格してもらいたいということありますが、それだけが目的ではありません。高校3年生という時期に、自分の頑張りにAIをプラスすることで、どれだけの変化があるのかを体験してもらいたいと考えています。それがあれば、将来社会に出たときに、AIを含むデジタル技術とうまく向き合えるようになるのではないかと思うのです」(渋川氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング