マーケティング・シンカ論

赤字からV字回復の「VAIO」 短期間で新ビジネスを成功させたワケグロービスが解説! 事例から読み解くマーケ最前線(2/3 ページ)

» 2023年10月19日 07時30分 公開
[柳田佳孝ITmedia]

赤字だった「VAIO」が短期間でV字回復できた3つの勝因

 VAIOは1997年にソニーから誕生したノートPCブランドです。2014年にソニーを離れ、VAIOとして社員数約250人で新たなスタートを切ったものの、創業当初は赤字でした。

 困難にぶつかったVAIOが取り組んだのは、ビジネスモデルの大きな転換です。VAIOはもともと一般向け販売(BtoC)がビジネスの主軸でしたが、14年の独立後は収益性の改善などを目的とし、法人向け(BtoB)を中心に販売する方針に転換しました。

 結果、15年に法人営業部隊を発足後、直販ECやインサイドセールスの機能をわずか半年で立ち上げ、以降には見事なV字回復を果たします。17年4月にはBtoBの売り上げがVAIO全体の7割を占めるまでになったのですが、このV字回復を影で支えたのが、CRM・SFA・MAの高度な連携でした。

 VAIOが法人向けPCとしてほとんど認知されていなかった状態から、短期間でBtoBビジネスの立ち上げに成功するまでの3つのポイントをまとめました。

(1)カスタマージャーニーに基づくシステム構築

 事業がBtoCからBtoBへと転換すれば、当然顧客と求められる価値も変わります。VAIOはこのビジネスモデルの転換を機に、改めて顧客体験価値へしっかりと向き合う必要があったのです。

 先述のように、CRM・SFA・MAは一元的な顧客管理を実現することで、企業が顧客体験価値を高め、LTVを高めるために役立ちます。そこでVAIOはCRM・SFAにはSalesforce、MAにはAdobe社のMarketoを採用し、カスタマージャーニーに基づいた顧客管理基盤をスピーディーに構築していきました。

(2)マーケティングと営業の担当領域を超えた協業体制

 VAIOは、マーケティングと営業の協業体制のつくり方も絶妙でした。

 一般的に、MAの領域をマーケティングチームが担当し、SFAの領域は営業チームが担当することが多いものです。そのような分業制を敷くとよく起こるのが、両チーム間のコンフリクトです。

 具体的には「せっかく質の高いリードをマーケティングから営業に送っているのに、営業が成約につなげてくれない」「マーケティングから送られてくるリードの質が悪く、営業の効率が悪い」といったものが典型です。当然、このような状態では最適な顧客体験をつくることも、LTVを向上させることもできません。

 そこでまず「マーケティングと営業がクロスする形」で「さまざまな顧客と長期的かつ効率的なコミュニケーションを継続していくこと」をコンセプトとして業務プロセスやシステムの選定・構築が行われました。だからこそ、CRM・SFA・MA導入が進められたのです。

 このコンセプトに基づき、リード獲得のためのコンテンツマーケティングは、マーケターと営業がワンチームで行います。これにより、ターゲットやペルソナについてマーケターと営業で共通認識を持つことが可能になります。すると、顧客のフェーズによらず一貫した顧客コミュニケーションをとることができます。

 また、営業のすぐ手前までをマーケターが担うことで、それぞれの見込み客に対して、より素早く最適な誘導を行うことが可能になります。例えば小口案件に対しては、マーケターの判断で販売パートナーやECへと送客を行っているそうです。これにより、営業はホットな大型案件の商談のみに専念できるようになり、限られたリソースを有効に活用できます。

(3)少ないリソースを最大限に活用するKPI設計・運用

 VAIOは決して大きな企業ではなく、社員のほとんどは技術者です。マーケティングや営業のリソースが少ない中でも、一貫した顧客体験をつくりながら、最小の力で最大限の売り上げを目指すことができるのが、CRM・SFA・MAを活用する醍醐味とも言えるでしょう。

 ここまで説明したようなプロセスを全社的に回していく上で、カスタマージャーニーとCRM・SFA・MAの役割分担に基づいた明確なKPI設計と運用が欠かせません。CRM・SFA・MAを活用すると、マーケティングや営業の現場の動きが定量的に可視化できます。

 具体的には、現在のリード数、アポ獲得数、商談数、商談ごとのフェーズ(商談開始や見積提出など)やネクストアクション、受注率などの現状が誰でも簡単に確認できるようになります。また、リード獲得から受注に至るまでの各プロセスにKPIを設定し、プロセス単位で目標と現状のギャップの可視化を行うことで、プロセス全体におけるボトルネックなどの課題発見と解決や、将来予測などもスピーディーに行えるようになるのです。

 CRM・SFA・MAを高度に連携させることで、目標を大きく上回る質・量のリード獲得や、商談化率の向上、商談時間の短縮、受注率の向上といった指標が大きく成長し、極めて短い期間でのVAIOのBtoBビジネスの成功が実現したのです。

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