ハンズマンの戦略を分析するにあたって、デジタル化とは何かあらためて考えてみましょう。デジタル化による業務改善、などとよく言いますが、「デジタル」という言葉を誤解している人は意外と多いものです。よく対比して用いられがちな「アナログ」とあわせて、ここで簡単に整理してみます。
デジタルとアナログの違いを一言で言うと、段階的なデータを扱うのがデジタルで、連続的なデータを扱うのがアナログです。
デジタル(digital)は「連続的な量を段階的に区切って数字で表す」ことを指します。デジタルの語源はラテン語で「指」を意味する「digitus」と言われています。「指折り数える」という動作から派生して、段階的に区切られた数値のことを「デジタル」と呼ぶようになったわけです。
アナログ(analog)は「数値を連続的に変化していく量で表す」ことを指します。語源は英語の「analogy(類似・類推)」です。「類推」は「類似の点をもとにして他の事を推しはかること」を意味します。
アナログとデジタルの違いは、データの扱い方にあります。アナログは連続的な量を扱い、デジタルは離散的な値を扱います。
カメラを例に見てみましょう。フィルムカメラ(アナログ)では、光の強さを連続的な濃淡として記録します。一方、デジタルカメラでは、光の強さを数値化し、ピクセルという細かな点の集まりとして記録します。
この違いは他の領域にも当てはまります。音楽では、レコード(アナログ)が溝の深さで音を表現するのに対し、CD以降のデジタル音源は0と1の組み合わせで音を記録します。時計も、針の動き(アナログ)か数字の表示(デジタル)かで区別されます。
アナログは自然界の現象をより忠実に再現できる一方、デジタルは正確な複製や処理が容易なことが特徴です。
ハンズマンはデジタルを軽視しているわけではありません。むしろ、独自のデジタルシステムを駆使しています。
例えば、ハンズマンの給与は行動評価制で「お客さまのための行動」が反映されます。評価項目は、リーダーシップや陳列、入荷、身支度、あいさつなど250項目以上にわたり、できたかどうかを二択でチェックすることで、自分に足りない行動が一目で分かるようになっています。この「人事考課システム」は、接客と売場管理能力を数値化するというアナログをデジタルにする仕組みです。
ハンズマンは、POSシステムの導入と運用にかかるコストを、より良い接客や品ぞろえ、商品価格の低減に振り向けることで、顧客満足度の最大化を図っています。
最新のテクノロジーを導入することだけが、必ずしも顧客満足度の向上や業績の改善につながるわけではありません。むしろ、自社の強みや顧客のニーズを深く理解し、それに合わせてテクノロジーを選択的に活用することが重要なのです。
企業経営においてヒト・モノ・カネの資源は無限ではなく、有限です。「やらないことを決める」ことは、企業の独自性を確立し、限られた資源を効果的に活用するための重要な戦略的決断です。これにより、市場での明確な位置づけと持続可能な競争優位を築くことができるのです。
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