リテール大革命

結局、店員が常駐……日本の「もったいないセルフレジ」 米小売業との決定的な違いは?がっかりしないDX 小売業の新時代(1/3 ページ)

» 2024年02月08日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。

 前回の記事「『残念なセルフレジ』はなぜ生まれるのか 顧客体験を損なわない方法」では、人件費削減を目的にセルフレジが導入されたものの、「がっかりな顧客体験」や従業員に無理を強いるオペレーション設計が多く、顧客と店舗にかえって負荷をもたらすケースがあることを説明しました。

 今回は、セルフレジの負をなくす方法について解説します。例えば、日本のスーパーマーケットでは、セルフレジの近くに複数人の店員が案内係として立っている風景をよく見かけます。しかし、米国では、セルフレジの案内係が日本より少なくてもスムーズに運用できている店舗が大半です。両者の違いは一体、どこにあるのでしょうか。

少ないセルフレジ担当者でも運用できるのはなぜか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式Twitter:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0


米国で激増するセルフレジ

 筆者は年に1〜2回、米国をはじめとした海外の小売業を視察しに行きます。コロナ禍を経て最も大きく感じた米小売業の変化は、セルフレジの圧倒的普及です。

 コロナ禍以前の2019年まで米小売業のセルフレジ導入率は、体感的には日本と大差のない状況でした。ところが22年に3年ぶりにニューヨーク、ロサンゼルス、シアトルの小売業を視察すると、驚くほど多くの店舗でセルフレジが大規模導入され、来店客の大多数がセルフレジを使っていました。翌23年にニューヨークを再訪すると、さらに増えていました。

 22〜23年に筆者は合計40回以上、米国で各社のセルフレジ決済を行いました。日本の小売店に設置されているセルフレジとの体験の差を一言で語ると「(大部分の店舗では)とにかく使いやすく快適である」ということに尽きます。

 普通に考えると、日本人用に日本語表記されたセルフレジが使いやすそうなものですが、そうではなかったのです。さまざまな人種が働き、生活する米国では、簡潔な英単語の使用や、文字に頼らない表現に気をつけているのだと感じました。23年3月に「観光立国推進基本計画」を閣議決定した日本でも見習うべき点だと考えます。

なぜ少ないセルフレジ担当で運用できるのか

 省人化という小売業のオペレーション視点から見ると、米国の小売店舗では十数台〜数十台あるセルフレジの監視兼サポート担当者はゼロか、1〜2人であることがほとんどです。多くは実際に操作する来店客を見て、アルコールなどの販売チェックをしているだけです。

 米国視察の際、筆者は他の来店客と同じようにクレジットカードのタッチ決済を使っているのですが、たまたまチップ用の両替を兼ねて、米大手GMS(総合スーパー)のTarget(ターゲット)で現金決済を選んだところ、なんとおつりの現金が詰まってしまいました。レジ画面に呼び出しボタンがあるので押すと、すぐに従業員が来てトラブルを解消してくれました。現金の紙質うんぬんは置いておいて、呼びやすさと担当者が少人数でも、呼べばすぐに駆け付けてくれるスムーズさが印象に残りました。

2.83ドルおつりが出るところ、1ドルだけ出て止まったセルフレジ(筆者撮影、Target Upper West Side 98th and Columbus店)

 日本より圧倒的に少ないセルフレジ担当者で運用できるのはなぜでしょうか。

 まず、エラーの発生率が大きく違うと体感しています。この点については、日本では不正チェックにおいて重量センサーを重視している企業が多いからだと感じます。不正を防ごうとした結果として、ちょっとした置き方の違いなどでエラーが発生してレジ担当者がエラー解消に駆け付けることになります。

 米国では不正チェックに関しては防犯カメラに注力しています。監視している映像を、セルフ決済している客の目に入る場所に置くなどの心理的な抑制効果を狙っているのは普通で、これは近年、日本企業でも採用例が増えてきました。加えて、多くの企業ではAIを活用して過去の購買行動を含めた動作に不審な点があるかどうかでふるいにかけているケースが増えています

 また、レジ内で行う広告などもレジ操作前など非常に限定的な場面でのみ流すか、もしくは画面内では全く流していないことがほとんどです。

 日本では、グループ企業や提携先のカード会社などに忖度(そんたく)して、来店客に関しては直接関係のない情報を表示して操作性が落ちていることがありますが、そういうことはほとんど見かけません。

 コロナ禍以前の視察ですが、ほぼ全てがセルフレジの中国のアリババ系生鮮スーパー「フーマー」でも、重量センサーは使っていませんでした。

2019年4月のフーマーセルフレジ(筆者撮影)
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