リテール大革命

Amazonファーマシー体験レポート その仕組みと収益モデルは?がっかりしないDX 小売業の新時代(1/2 ページ)

» 2024年08月21日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。

 2024年7月、日本の医療サービスにおいて話題をさらうサービスが開始しました。その名も「Amazonファーマシー」。Eコマースの巨人Amazonが、薬局を選んで処方薬を買えるサービスを開始したのです。

 Amazon自身が公式サイトで「薬局を選んで処方薬を買えるサービス」と表現しているように、Amazonが自ら保険調剤薬局を運営するわけでもなければ、そこから医療用医薬品を配送するサービスでもありません。しかしながら、メディアでは誤謬(ごびゅう)の混ざった記事も多く見かけます。

 Amazonファーマシーは、どのような収益モデルなのでしょうか。使い勝手はいかほどなのでしょうか。薬剤師であり、ドラッグストア勤務時代にEC事業と会員制ネットスーパー方式の新規事業(Amazon Prime Now)の責任者でもあった筆者が、現時点におけるAmazonファーマシーの仕組みについて解説したいと思います。

Amazonファーマシーの収益モデルとは(アマゾンジャパンのプレスリリースより)

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0


Amazonファーマシーの特徴は?

 Amazonファーマシーはオンライン服薬指導プラットフォームの一つです。既存サービスとしては「SOKUYAKU」「kakari」「Pharms(CLINICS)」などが該当します。また、日本調剤、アイン薬局、そうごう薬局など調剤大手は、自社の患者用アプリを展開しています。

 Amazonファーマシーの特徴は、包括的なアプローチにあります。薬剤師によるオンライン服薬指導から処方薬の配送まで、一連のプロセスをシームレスに提供するプラットフォームです。Amazonショッピングアプリから利用開始できるので、服薬指導専用のアプリをダウンロードして登録するよりも少ないステップで利用できます。

 このサービスを利用するには電子処方箋が必須です。筆者は2022年に医療機関で診察を受けた後に紙の処方箋を郵送し、オンライン服薬指導を受けて、医療用医薬品をコンビニで受け取る体験をしたことがあります。

 この際には服薬指導を受けてからコンビニで薬を受け取る状態になるまで8日かかりました。薬局への処方箋の郵送がボトルネックになったのです。処方箋を普通郵便で郵送して届くまでに曜日などが好条件であれば最短1日、即日発送できれば2日後にはコンビニに届く可能性がありましたが、それでも処方箋を郵送して2日後です。

 オンライン服薬指導を現実的な手間で利用するためには、電子処方箋が欠かせません。2022年秋に日本での「Amazon Pharmacy」展開を大手チェーンに声掛けしているというメディア報道があった後に、サービス開始まで2年かかったのは、電子処方箋普及に国が本気で取り組むのを待っていた可能性があります。

 さて、サービスを利用するには、医療機関で診察時に電子処方箋の発行を受けるか、Amazonアプリ、または提携するメドレー社の総合医療アプリ「CLINICS」アプリでオンライン診療を受けて電子処方箋のデータを取得する必要があります。

 その後、Amazonショッピングアプリから登録薬局を選び、オンラインで薬剤師による服薬指導を受けます。処方薬は自宅への配送か、薬局店舗での受け取りを選択できます。

 服薬指導を受けられる対象店舗は、サービス開始時点でウエルシアホールディングス、アインホールディングス、クオールホールディングスなど、約2500店舗となっています。

Amazonファーマシー利用の流れ(アマゾンジャパンのプレスリリースより)

価格と収益モデル

 保険調剤にかかる費用は通常の薬局と同じく、国が定めた価格です。薬局もAmazonも配送による利益は国から得られないので、配送料は発送する薬局の負担になります。したがって薬局ごとに金額を患者に請求することになります。普及が進むにつれて送料を安くするなどして処方箋獲得を狙う薬局が増えてくるでしょう。

 一方、薬局がAmazonに支払う初期費用や月額定期費用はありません。売り上げに応じて手数料を受け取るモデルです。人づてに薬局からAmazonへの支払いは1件600円前後という話を耳にしたことがあります。

 薬局から見ると、オンラインからの集客をAmazonに任せて、処方箋が来るごとに手数料を払うモデルに見えます。そして、他のオンライン服薬指導プラットフォームよりも集客力がありそうに見えます。

 そう考えると、Amazonファーマシーの登場で、オンライン服薬指導プラットフォームを展開する競合企業は収益化が一段と難しくなりそうです。

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