CxO Insights

旅行会社があえて「科学者」を採用するワケ どんな業務を担うのか?

» 2024年10月07日 08時30分 公開
[翻訳・編集=小松はるかサステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)]
サステナブル・ブランド ジャパン

本記事はサステナブル・ブランド ジャパンの「サステナビリティに取り組むホスピタリティ・旅行会社が科学者を採用するメリットとは」(2024年9月10日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。SB.comオリジナル記事はこちらから。

 環境や社会に配慮した消費が広まり、気候危機に取り組むことが産業を存続させる上で不可欠になろうとする中、ホスピタリティ・旅行産業が変化を起こすことは非常に重要だ。

 旅行会社が従業員を募集する場合、典型的な役職が存在する。CEOやオペレーション・マネジャー、販売やマーケティング、プロダクトデザイナー、カスタマーサービスの担当者などだ。

 そこに、これまでになかったポジションが加わるようになってきている。科学者だ。

Image credit: Intrepid Travel

観光分野で働く「科学者」はどんな役割を担っている?

 近年、産業界や企業において気候変動と生物多様性の危機への注目が著しく高まっている。観光業界も例外ではない。いまや、あらゆる仕事が気候変動に関連するものになっているといわれるが、学問分野の訓練を受けた科学者らは独自のスキルを観光業界にもたらす存在だ。

 そのスキルには、データを分析し、科学的トレンドを再検討し、把握し、現場調査を行うスキルのほか、複雑化していく科学情報をひも解き、適応し、伝達するためのベストプラクティス(最優良事例)についてアドバイスをすることも含まれる。

 観光業界、特に航空部門は、脱炭素化を迅速に進めようと努めている。そうした中、科学者が持つスキルは、企業がデータに裏打ちされた炭素排出量の削減計画やサステナビリティ戦略を実行するのに役立つものだ。気候科学者や環境科学者をスタッフに加えることは、企業がビジネスの根幹においてサステナビリティを優先させるのに当然ながら一致する。旅行会社で働く科学者がサステナビリティ専門のポジションに配置されることが多いのも不思議ではないだろう。

 それは最近、ナヌク・リゾート・フィジーのサステナビリティ・オフィサーに着任した環境科学者のワセロマ・シガボウ(Waseroma Sigavou)氏にも当てはまる。「科学は、環境や環境への影響を理解するのに役立ちます」と彼は言う。

 シガボウ氏は過去5年間、ホスピタリティ関連の立場で、保全事業や保護活動を創出し、海洋の保全・持続可能性に取り組んできた。そうした取り組みには、保全団体Corals for Conservationを通じたサンゴの識別や養殖の支援、タイマイ(ウミガメ)の保護プログラムの運営、アサリの養殖事業の組織化を支援することも含まれる。

 こうした経験全てが、ナヌク・リゾート・フィジーがBatiwaiプロジェクトに必要なサステナビリティの役職に求めているものに当てはまる。同プロジェクトは、自然環境やその周辺環境を保全しながら、地域の海洋生態系を改善し、リゾートの環境負荷を最小限に抑え、従業員と地域コミュニティの生活を向上させるための取り組みだ。

 「“サステナビリティ”と聞くと、私は海洋・淡水・陸上の生態系という3側面の環境と、そうした環境とリゾートがある場所との関係性を維持・保護する方法を思い浮かべます」(シガボウ氏)

 しかし、サステナビリティの役職に就くだけにとどまらず、観光分野で働く科学者というのは、製品開発からサプライチェーン調達、コンテンツ開発に至るまで、ビジネスのあらゆる側面に対して科学的根拠に基づいた視点やアドバイスを提供できるのだ。

 例えば、オーストラリアに本拠を置くイントレピッド・トラベル(Intrepid Travel)では、スザンヌ・エティ(Susanne Etti)博士が自然科学の博士号を同社のグローバル環境インパクトマネージャーの役職に生かしている。

 エティ氏は、社内で気候変動対策や報告作業、サステナビリティに取り組む文化の醸成に責任を負っている。さらに、イントレピッドが検証された科学的根拠に基づく気候変動目標を約束する手助けをしたり、観光ツアーにCO2排出量を示すカーボンラベルをつけたりするなど、気候変動やサステナビリティに関する幅広い取り組みに携わっている。

 同社のゼネラルマネジャーを務めるエリカ・クリティキデス(Erica Kritikides)氏は、博士について「製品チームで当社の製品のCO2排出量を測定するツールづくりを主導しています」と説明し、そのことが「戦略的な旅行商品のデザインを通じた環境負荷削減の取り組みに役立っています。例えば、可能なら、旅程にあるフライトを快適な鉄道などの陸路をつかった代替手段に置き換えたりすることです」と話す。

 ホスピタリティや観光業におけるこうした変化は、起きればそれでいいというものではない。環境や社会問題を考慮した消費主義が広まり、気候危機に取り組むことが産業の維持に不可欠になるにつれて、ますます重要になっている。

 シガボウ氏は「(人々は)サステナビリティが今とても重要だということを知る必要があります。ホテルや開発が増えるにつれ、知識という面で、固有の生物多様性や文化的遺産を保全・回復するために常に備えるべきです」と話す。

 さらに、イントレピッドの従業員らが理解しているように、科学者の存在は、企業がサステナビリティと気候変動を常に最優先していることを社内外のステークホルダーに伝えることにもなる。

 「エティ博士のような気候科学者が社内にいることの最大のメリットは、組織内の文化の転換が生まれることだと思います。専任者がいることで、スタッフにも顧客にも、気候変動を私たちが真剣に捉え、直接的さらに十分な情報に基づいて行動を取りたいことだと明確になります」とクリティキデス氏は言う。

著者紹介:Sustainable Brands Japan(SB-J)メディア・サイト

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